氏 名 ささき さとる
佐々木 啓
本籍(国籍) 岩手県
学位の種類 博士 (工学) 学位記番号 工博 第113号
学位授与年月日 平成18年3月23日 学位授与の要件 学位規則第5条第1項該当 課程博士
研究科及び専攻 工学研究科 物質工学専攻
学位論文題目 層状複水酸化物のインターカレーション特性を活用するナノハイブリッド吸着剤 ならびに分子コンテナーの創製
論文の内容の要旨

 層状複水酸化物(Layered Double Hydroxide : LDH)は陰イオン交換能を持ち、 層間に種々の陰イオンを取り込むことが可能である。 また、その他の特徴として、環境親和性が高く安価であることや合成方法が容易である点などが挙げられる。 近年、有機物と無機物がナノオーダーで複合化したナノハイブリッド機能性材料の研究が行われている中で、 有機修飾が容易で立体化学的に興味深い性質を持つ大環状有機分子との複合化は、触媒や吸着剤の開発の観点から 興味が寄せられている。 特に包接型大環状有機分子は、基本骨格数の制御や有機修飾の自由度が高く、用途に合った分子設計が可能であり、 ホスト‐ゲスト相互作用を活用した多面的な研究展開が期待できる。 本研究では、[I]包接型大環状有機分子であるカリックスアレーンやチアカリックスアレーンのLDHへの 取り込みおよび生成複合体の吸着剤としての特性評価、 [II]天然(非イオン性)シクロデキストリンのLDHへの取り込み‐放出による分子コンテナーとしての 特性評価について検討し、下記のような新たな知見を得た。

 第1章は緒論であり、本研究の背景および目的について述べた。 最近の無機層状化合物、特にLDHに関する研究動向と大環状有機分子との複合化による機能性材料開発の 有用性についてまとめた。

 第2章では実験方法について述べた。

 第3章では、カリックスアレーンスルホン酸 (CS4およびCS6)の再構築法および共沈法によるMg-Alおよび Zn-Al/LDH層間への取り込みについて検討し、新たなナノ複合体の合成に成功した。 LDH層間におけるCSの配向は、ホスト金属の種類や合成pHによって変化し、Mg-Al/CS4/LDH複合体については CS4のC軸が基本層に対して垂直方向に、Zn-Al/CS4/LDH複合体についてはC軸が平行方向に配位することが考えられた。 一方、CS6/LDH複合体については、中間層の厚さに大きな差がみられなかったことから、 両金属系ともにCS6のC軸はLDH基本層に対して垂直方向に配位していると考えられた。 また、Zn-Al/CS6/LDH複合体については、環反転によってCS6のコンフォメーションが変化していることも示唆された。 このような配向性の違いは、細孔分布測定およびBET比表面積測定から裏付ける結果を得た。 さらにCS/LDH複合体を用いた液相吸着実験において、LDH基本層との静電気的相互作用の有無に関係なく吸着能を 発揮し、特にZn-Al/CS4/LDH複合体については層間のCS4内部空孔によるホスト‐ゲスト効果によって高い吸着能を 示すことを明らかにした。

 第4章では、前章の成果をもとに、CSのメチレン架橋基が硫黄に置換されることにより分子認識能が 異なるチアカリックスアレーンスルホン酸(TCS4)の再構築法および共沈法によるMg-AlおよびZn-Al/LDH層間への 取り込みについて検討した。 その結果、LDH層間におけるTCS4の配向は、ホスト金属の種類や合成pHだけでなく、 ホストの電荷密度によっても変化することを明らかにした。 特にホスト金属比Mg/Al = 3, 合成pH 10の条件下で合成したMg-Al/TCS4/LDH複合体は、 中間層のTCS4のC軸が基本層に対して平行方向に配位することが考えられた。

 第5章では、非イオン性大環状有機分子である天然シクロデキストリン(α-, β-およびγ-CD)の再構築法による Mg-Al/LDH層間への取り込みについて検討を行った。 陰イオン修飾CDのLDH層間への取り込みは報告されているが、天然CDの取り込みは、これまでにない新しい試みである。 その結果、CD分子をLDH層間に二分子層を形成して取り込むことが可能となった。 CDの取り込みは、CDの持つOH基と水酸化物基本層との水素結合によって起こると考えられた。 さらに、Na2CO3およびNaCl水溶液を用いた放出実験において、 CD/LDH複合体からCDをほぼ100%放出させることができた。 したがって、CDのような非イオン性大環状有機分子について有機修飾を行わずにそのままの形で 取り込み‐放出が可能であることを明らかにした。 ゲスト包接型CDの取り込みでは、包接したゲスト物質によるCDの徐放性の制御や、 単体ではLDHに取り込みにくいゲスト物質を包接することによって層間に取り込むことができた。 したがって、CDの包接機能を利用した薬効成分の付加の可能性が示された。 また、フックス変法試験よりCD/LDH複合体はモデル胃酸溶液中でも制酸効果を発揮することがわかった。 本研究で取り扱ったCDは、陰イオン修飾CDに比べて人体への安全性が確認されており、 さらに安価であることから、複合体の食品や医薬品などへのデリバリー剤としての応用が期待される。

 第6章は結論であり、本論文の総括を行った。

 以上のことより、包接型大環状有機分子であるCS,TCSおよびCDをLDHにナノ複合化することに成功し、 LDHをホスト固定層とする有機無機ナノハイブリッド吸着剤ならびにLDHをホスト運搬層とする 分子コンテナーとしての新たな可能性を見出した。