氏 名 鎌田 貴晴 本籍(国籍) 北海道
学位の種類 博士 (工学) 学位記番号 工博 第110号
学位授与年月日 平成17年9月30日 学位授与の要件 学位規則第5条第1項該当 課程博士
研究科及び専攻 工学研究科 電子情報工学専攻
学位論文題目 電磁加速型擬火花放電に関する研究
論文の内容の要旨

 アーク放電プラズマは熱平衡状態となっている高温、高密度プラズマである。 このようなアーク放電はプラズマジェットなどに応用され、 その代表的なものとして、DCアークジェットやMPDアークジェットが挙げられる (MPDは Magneto-Plasma-Dynamicの略)。 しかし、アーク放電の電子放出機構は主に熱電子放出なので電極磨耗による装置の性能劣化や寿命短縮が問題である。 また、電極磨耗はプラズマへの不純の混入の原因にもなる。 このため、長寿命でかつ高出力のプラズマジェットを開発するためには、この熱問題を解決することが重要である。 この問題を解決する一つの放電形式として、擬火花放電(Pseudo-spark discharge ; PSD)がある。 気体放電の最も基本的な電極形状は平行平板電極であるが、擬火花放電では中心に小孔を有する 平行平板電極が用いられる。 すなわち、陰極と陽極には中心軸上に小孔があけられており、そして陰極の後方は円柱状の中空空間を持った 金属部(中空陰極)になっている。 この放電は、パッシェン曲線の最小火花電圧に対応する気圧とギャップ長の積(pdmin)よりも左側の領域、 すなわち低気圧領域で行われる。 この領域では、パッシェン曲線のpdminを超えない範囲内でより長い放電路を優先するように絶縁破壊が起こる。 したがって、二つの電極の直線距離よりも長い放電路が形成される。 すなわち、陰極後方部(中空陰極)から二つの電極孔を通り、陽極の外側面に向かう放電路である。 このような放電は、低気圧領域において高い放電開始電圧で形成されることから、 比較的容易に大電流を流すことが可能である。 また、ホロー陰極効果によって電子放出機構が主にγ作用になることから、大電流においてもグロー状の 放電を維持することができ、電極の損傷が少ないという特徴をもつ。 本研究はこれらの特徴に注目し、PSDを応用して高出力で長寿命のプラズマジェットを実現するための基礎として、 電磁加速型擬火花放電を提案し、その基礎特性について調べた。 本研究の電磁加速型擬火花放電では、PSD電極の陽極孔径を陰極孔よりも大きくすることによって、 放電電流の半径方向成分を大きくしている。 半径方向の電流成分とプラズマ電流による磁界の方位角方向成分によって軸方向に向かう電磁力が発生し、 プラズマは加速される。 本論文では、従来のPSDと本研究で提案するPSDとの比較実験を行い、 プラズマ中の電子温度や電子密度の時間的・空間的変化を調べた。 使用した気体は水素で、放電電流は最大値約10kA、周期約30μsの減衰振動波形である。 本論文は以下のように6章から構成され、各章は以下のように要約される。 第1章は序論であり、本研究の背景としてグロー放電およびアーク放電の特徴と工学的応用に触れている。 ここでは、特にアーク放電の応用例の一つであるプラズマジェットを取り上げ、その問題点を述べている。 また、プラズマ源として擬火花放電やそれに関わる現在までの研究の流れに触れている。 最後に擬火花放電、および電磁加速型擬火花放電の特性や特徴を解説している。 第2章では、本研究で使用した実験装置を詳しく説明している。 第3章ではプローブ計測について述べている。 すなわち、プラズマ診断に用いるプローブ法の原理、測定上の問題点やその対策等を記述している。 本研究では、パルス的に発生したプラズマを電磁力で加速するために、放電の再現性や電磁的なノイズなどの 問題によってプラズマ診断は極めて困難であったが、これらの問題を解決しながら、ダブルプローブ法により 浮遊電位のパルスプラズマの物理量を計測した。 本章では、ダブルプローブ法、その基礎であるシングルプローブ法を説明している。 第4章では、擬火花放電と電磁加速型擬火花放電の基礎特性を記述している。 まず、気圧と絶縁破壊電圧との関係について調べた。 その結果、二つの放電形式とも気圧の減少に対して絶縁破壊電圧は上昇することがわかった。 このことから、実際にパッシェン曲線の最下点より左側の低気圧領域で放電していることが確認された。 また、この測定値とパッシェンの法則を記述する式から計算で求めた理論値(曲線)とを比較することで、 電極間の直線距離よりも長い放電路が形成されることを確認した。 実験後に電極に残された放電痕の観察を行った。 その結果、電極間距離よりも長い放電路の形成を視覚的にも確認された。 第5章では、電極からプラズマが撃ち出される様子やプラズマパラメーターの時間的・空間的変化を述べている。 初めに観測窓からデジタルカメラを用いて放電の様子を撮影し、二つの放電におけるプラズマ撃ち出しの距離を 写真画像から比較した。 陽極孔から撃ち出されたプラズマの長さは従来のPSDでは約50mmであるのに対して、電磁加速型では約60mmであった。 この結果から電磁加速型の方が効果的にプラズマが撃ち出されることがわかった。 次にダブルプローブを用いてプラズマ計測を行った。 測定距離は陽極から72mmと172mmである。 その結果、電磁加速型擬火花放電では電子温度が約1.9eVで、電子密度は約4.7×1014cm-3のプラズマであることがわかった。 この結果は、電磁加速型では電子密度が従来のPSDよりも高いことを示している。 さらに、プローブの位置を変えて、電子密度の距離による減衰の仕方を比較した。 その結果、電磁加速型の方が距離に対する減少割合が小さいことも確かめられた。 これらの結果は電磁加速型擬火花放電の方が撃ち出す力が大きいことを示すものである。 第6章では結言として、本研究で得られた新しい結果を要約するとともに、今後の課題や本研究の工学的応用について述べている。

 以上、擬火花放電において陽極孔が陰極孔よりも大きい場合のプラズマ物理量を明らかにするとともに、 このような電極形状ではプラズマにローレンツ力が作用し、プラズマ撃ち出しは効果的であることを明らかにした。