氏 名 山口 正己 本籍(国籍) 静岡県
学位の種類 博士 (農学) 学位記番号 連論 第99号
学位授与年月日 平成17年3月23日 学位授与の要件 学位規則第4条第2項該当 論文博士
学位論文題目 核果類における果実肥大および果実障害発生に及ぼす果肉細胞分裂と細胞肥大の影響に関する研究
(Studies on the influences of mesocarp cell deviation and cell elongation on fruit development and physiological fruit disorders among stone fruits species and cultivars)
論文の内容の要旨

 核果類の果実の大きさは樹種により大きく異なるほか、同一樹種においても品種による差異が 認められ、近年の消費者ニーズからいずれの樹種においても大玉品種の育成が求められている。果実の大きさには、 果実中の細胞数と細胞の大きさが関与すると考えられるが、核果類のいずれの樹種についても細胞数および 細胞の大きさを定量的に把握し、果実重との関係を明らかにした研究は極めて少ない。そこで、本研究では、 赤道部徒手切片の顕微鏡写真撮影による中果皮細胞径の測定と細胞数の推定により、モモ、ウメ、ニホンスモモおよび 甘果オウトウの核果類について、果実の肥大と中果皮細胞分裂および細胞肥大との関係を検討し、果実の大きさの 品種間差異が生じる要因について解明を試みた。さらに、モモの一種であるネクタリン、甘果オウトウの裂果および ウメのヤニ果発生と外果皮および中果皮肥大との関係を検討し、抵抗性の発現機構について解明を行った。

1.核果類果樹の果実肥大に及ぼす果肉細胞数および細胞径の影響
 まず、モモを用いて徒手切片の顕微鏡写真による中果皮細胞径の測定を行い、得られた細胞径の数値が果実の 肥大過程と良く適合するかについて検討を行った。この結果、細胞分裂停止後の果実重あるいは果実径の増加は、 中果皮細胞径の増加と極めて高い相関を示すとともに細胞分裂停止以降の中果皮細胞数が品種の果実重に強い影響を 及ぼすことが明らかになり、本手法が核果類果実の肥大経過と最終的な果実の大きさの品種間差異の解明に 有効であると判断した。次に、早生、中生、晩生の栽培品種および果実の極めて小さい台木用品種を用い、 開花から1週間ごとに8週間にわたり中果皮の細胞径を測定するとともに、中果皮細胞数((果実側径-核側径)/ 中果皮平均細胞径)を算出し、中果皮における細胞分裂期間および速度と最終的な細胞数の品種間差異について 検討を行った。この結果、モモ栽培品種の中果皮細胞分裂は早いもので開花後4週間、遅いもので5週間余りで停止し、 分裂期間の短い品種で中果皮細胞数が少なくなることが明らかになった。こうした中果皮細胞数の品種間差異が 開花後の果実発育過程で生じることを確認するために品種・系統のモモについて、満開時の中果皮細胞数を算出した結果、 細胞数の差異は開花時には小さく、この差異が主として開花後の細胞分裂の過程で生じることが明らかになった。 さらに、品種・系統を用いて中果皮細胞数、成熟果の中果皮細胞径および果実重を測定し、測定項目相互の相関と 年次相関を求めたところ、中果皮細胞数と果実重の相関が高く、年次相関でもこれらの測定項目が高い相関を示し、 果実重の品種間差異が主として中果皮における細胞数の差異によっていることが明らかになった。

 ウメについても同様の検討を行った結果、モモと同様、中果皮細胞数の品種間差異が認められ、果実重の 品種間差異に対する中果皮細胞数の強い影響が明らかになった。また、細胞数の差異は、主として中果皮における 細胞分裂期間の差異により生じることが確認された。

 ニホンスモモでは熟期、果実重の異なる4品種を用いて、開花後の中果皮細胞数および細胞径の推移を検討したが、 果実重の差異に較べて中果皮細胞数の差異は小さく、成熟果の果実重は最終的な中果皮細胞径の大きさに左右されることが明らかになった。

 甘果オウトウにおいても中果皮細胞数に品種間差異が認められ、果実重の品種間差異に大きく寄与していることが 確認されたが、分裂期間が3週間に満たず、細胞数の品種間差異が生じる要因の解明には至らなかった。このように、 果実肥大と中果皮細胞数および細胞径の関係は、ニホンスモモを除き、いずれの樹種でも同様な傾向が認められ、 果実重の品種間差異および樹種間の差異に中果皮細胞数が最も重要な働らきをしていることが確認された。 また、果実の生育過程を3つのステージに分け、各ステージの果実肥大における意義を検討した結果、 ステージⅠでは前半で細胞分裂、後半では細胞肥大が進行することが再確認されるとともに、ウメ、スモモおよび 甘果オウトウではステージⅡの期間が短く、ステージⅢの長さが収穫期の早晩に強く影響を及ぼしていることが示された。

2.裂果およびヤニ果発生と及ぼす外果皮および中果皮肥大の影響
 オウトウの裂果発生に関する研究においては、水浸漬法により甘果オウトウの裂果程度を判定することが可能である ことが判明し、裂果発生には広い品種間差異が存在することが確認された。裂果の発生程度は果頂部の外果皮細胞径、 果実の大きさおよび果肉硬度と有意な相関を示した。特に果頂部外果皮細胞径との相関が高いことが判明し、 裂果感受性の評価の指標として有効であると考えられた。この果頂部外果皮細胞径の品種間差異は、この部位における 外果皮細胞分裂停止時期の早晩により生じ、分裂が遅くまで続く品種ほど外果皮細胞径は小さくなり、裂果の発生が 少ない傾向が認められた。ネクタリンの裂果発生にも、果肉の肥大と外果皮細胞肥大との関係が重要であることが 明らかになった。果実径と外果皮細胞径の間には品種ごとに高い相関が認められたが、この回帰直線の傾きが大きいほど 裂果の発生が多くなる傾向があることから、この回帰直線の傾きはネクタリン品種の裂果抵抗性の判定指標として 有効であると判断された。また、外果皮に分布する気孔の密度は外果皮細胞の肥大と並行して低下することから、 気孔密度と果実側径と縦経の積の逆数の回帰直線の傾きも同様に裂果抵抗性の簡便な指標として用いることができる ことが判明した。またウメのヤニ果の発生は果頂部中果皮の特異的な肥大による果肉の裂開がその発生原因であると 推定されることを示した。