氏 名 三國 克彦 本籍(国籍) 神奈川県
学位の種類 博士 (農学) 学位記番号 連論 第98号
学位授与年月日 平成17年3月23日 学位授与の要件 学位規則第4条第2項該当 論文博士
学位論文題目 固定化酵素による有用糖質の生産とその利用
(Production of useful saccharides by immobilized enzyme and their application)
論文の内容の要旨

 CDは分子内に空洞を有し、様々な化合物をその空洞内に取込む特性を持っている。 そのため、不安定物質の安定化、揮発性物質の保持、異臭のマスキング、水溶性の向上、吸湿性抑制と粘性物質の 粉末化を目的として使用されている。また、CD環にマルトースがα-1,6グルコシド結合したマルトシルCDは、 水に対する溶解性が優れCDの利用範囲を広げる物である。しかしながら、製造コストが高いのが問題となっている。

 そこで本研究では、CDおよびマルトシルCDの製造コストの低減を目的に、CGTaseおよびプルラナーゼを 担体に固定化し、これらCDの連続生産を試みた。その結果、CGTaseの固定化には、マクロポーラスな 親水性樹脂が適しており、CDを1か月以上安定的に連続生産可能であった。

 さらに、グルコシルCD生産効率化を目的として、ポテトスターチにB.macerans 由来のCGTaseを 作用させて、デキストリンの構造を解析した。CGTaseは、アミロペクチンの外部鎖および内部鎖に作用し、 条件を制御することによりCDの生成を効率化できることを明らかにした。また、本デキストリンは、グルコシル CDの生成に適していることが明らかとなった。

 マルトシルCDを連続生産するためのプルラナーゼの固定化には、セピオライトから作られるセラミックが 適しており、見かけの活性半減期は74日であった。これはきわめて安定で工業生産の可能性を示唆した。 さらに、固定化酵素の熱安定性を検討した結果、固定化することにより熱安定性が増した。また、基質が 存在すると安定性が増すことが明らかとなり、酵素の失活過程は1次反応速度式にしたがっていた。 この速度式から、固定化酵素の活性半減期を短時間で予測することが可能となった。

 茶類抽出液は低温になると白濁しはじめ、いわゆるミルクダウン現象が見られる。CDは紅茶のミルクダウン防止に 有効であることを明らかにした。具体的には、溶液に対しタンナーゼ0.001%添加、β-CD0.2%添加によって、 紅茶本来の香味および色調を損なわないミルクダウンの防止ができた。現在多くの茶飲料にCDが配合されている。

 中高年層で上昇する不快臭の原因である不飽和アルデヒドは加齢臭と呼ばれる。主な原因物質であるノネナールの 消臭に関して、CDを用いて検討した。その結果、ノネナールの消臭には、Me-β-CDが最も適していること明らかにした。

 α-トコフェロールを環化反応中に加えると、α-トコフェロールと糖質が複合体を形成し、CDで包接するより 水に対する溶解度が高いことを明らかにした。

 ビフィズス菌増殖因子である4G-β-D-galactosylsucrose(Lactosucrose, LS)を低コストで 製造することを目的に、β-フラクトフラノシダーゼを担体に固定化し、LSの連続生産を試みた。 その結果、マクロポーラスな親水性樹脂を担体に用い、LSを1か月以上安定的に連続生産可能であった。 固定化酵素を用いて工業的にLSが生産可能であることが示唆された。

 また、LSの摂取量と一過性の下痢との関係を男女の健常人のボランティア84人を被験者として、3日間以上の 間隔をおき試験を行った。LSを摂取して、水様性下痢を生じた場合を「作用プラス」と定義したとき、女性の 最大無作用量は0.6g/体重kg、男性では0.6g/体重kgに近い値であった。LSは難消化性糖類であるが下痢誘発性の 低いことを明らかにした。

 このように有用糖を固定化酵素で連続生産可能なことを示し、新たな利用、有効性を明らかにした。