氏 名 笹森 新一 本籍(国籍) 青森県
学位の種類 博士 (農学) 学位記番号 連論 第96号
学位授与年月日 平成17年3月23日 学位授与の要件 学位規則第4条第2項該当 論文博士
学位論文題目 西津軽地域における農業用水の循環に関する研究
(Studies of the Circulation of Irrigation Water in Nishi-Tsugaru Area)
論文の内容の要旨

 本研究は、青森県岩木川水系の西津軽地域を対象に、農業水利の発展過程の中で、主にその 時代の背景、社会的要請、水利協議などを基に、それらに伴う農業水利施設の造成の推移を整理し、農業水利の 基本である「水」「施設」「管理」の展開方向について取りまとめたものである。

 本研究は、先ず、岩木川水系における農業水利の特徴と発展過程、西津軽地域での農業水利の整備過程を整理した。 さらに、地域の水利用に関する問題点を明らかにした上で、水利用の課題である「栽培管理用水の必要性とその計画・ 設計」を論じ、栽培管理用水補給水利施設の計画・配置・運用実績から、西津軽地域における農業用水の循環について 考察をしたものである。

 青森県岩木川水系の西津軽地域では、国営灌漑排水事業西津軽地区(1943~1968)、西津軽第Ⅱ期地区(1967~1980)、 津軽北部地区(1983~1997)等により基幹的な農業水利施設が造成された。また、これら事業に関連する県営土地改良 事業で地域内の用排水施設や圃場が整備された。

 西津軽地域の農業水利の展開は、水利施設未整備状態の第1段階から、灌漑地域までの基幹水利施設が整備された 第2段階を経て、地区内整備が完了した第3段階の後、現在は、新たな水需要に対応するための国営灌漑排水事業 岩木川左岸地区の実施段階にある。

 地域での水利用に関する最近の報文は、「津軽地域における農業水利の歴史的評価と展開方向」工藤・笹森(2001)、 「岩木川水系下流部における農業用水の循環」笹森(2004)、「西津軽地域における代かき期の栽培管理用水補給事例」 笹森(掲載予定)、「西津軽地域における農業用水の循環形態の概要」笹森(掲載予定)等がある。 これらの報文は、地域の農業用水に関して、開発の歴史や水利用の実態、さらに、営農の変化に伴う新たな水管理問題への 対応について論じたものである。

 西津軽地域における農業用水の主要な水源は、目屋ダムの貯留水を含む岩木川から取水する河川水、 廻堰大溜池の貯留水、そして地区内の反復水等である。その水循環形態は、岩木川統合頭首工で取水された農業用水が、 地域内の排水路に排水され、地域内で数回にわたって反復利用される いわゆる「域内循環形態」である。また、 廻堰大溜池を利用した「貯留循環形態」をもとる。

 これらの循環形態は、この地域の水源水量の実態に合わせた形態をとっているもので、特に代かき時の 栽培管理用水の補給には、「分散型地区内反復利用システム」が効果をもたらした。

 本研究の背景となった西津軽地域の用水問題は、水源水量の不足の問題に加え、田植え時期の早期化と、 単位期間内の代かき面積の増加も一因となっている。これら田植えの早期化に伴う水問題は、代かき作業の早期化が 前提であり、そのためには、
①取水時期の早期化
②単位代かき面積の増加に伴う代かき用水供給量の増加
が伴って可能となる。

 ①の取水時期の早期化は、水利権との関係があり、西津軽地域では、毎年度許可水利権以前の取水を河川管理者と 協議をして許可前取水を行っている。また、②の用水供給量の増加の問題は、既存水利施設の通水能力と関係し、 自ずからその供給量は限定される。西津軽地域では、この問題を揚水機による地区内反復利用を行う「分散型 反復水利用システム」を採用することによって解決した。

 西津軽地域の農業水利発展過程第4段階(現在まで)は、国営や県営の灌漑排水事業の実施と、県営圃場 整備事業の実施により用水環境は格段と改良されたが、地域の水利用に対する要望はそれを超え、管理者である 土地改良区は地域内に数多くの仮説揚水機を設置せざるを得なかった。

 西津軽地域では、圃場への揚水作業が過酷であっただけに、これまでも個人所有の足踏み水車から、個人所有の 動力揚水機へ、さらに共同所有の動力揚水機の導入へと発展したように、揚水機に関する関心が高いことから、 運転経費の嵩む揚水機の設置についても理解があった。

 水田稲作を取り巻く環境は、米価との関連も有り、さらに生産コストの削減が求められている。現在主流に なっている稚苗移植技術は、耕起代かき後に行う直播へと移行していくことが予想されることから、取水時期の 早期化と、期間内用水供給量の増加の問題は、引き続き検討を要する課題であると考える。

 水田農業の持続的発展は、その基盤である農業水利の持続的発展に大きくかかっていることから、 本研究で論じた「栽培管理用水の必要性とその計画・設計」「分散型反復水利用システム」は、今後この地域の 農業水利の展開や、西津軽地域と同様な農業用水の循環を行っている地域の農業水利に一つの示唆を与えるものであると思料する。