氏 名 鈴木 剛 本籍(国籍) 広島県
学位の種類 博士 (農学) 学位記番号 連研 第330号
学位授与年月日 平成17年3月23日 学位授与の要件 学位規則第4条第1項該当 課程博士
研究科及び専攻 連合農学研究科 生物環境科学専攻
学位論文題目 組み換えラット肝ガン細胞を用いたAhR結合アッセイによる有機性廃棄物コンポストに含まれる ダイオキシン類縁化合物の包括的評価
(Comprehensive study of dioxin-like compounds in organic waste composts using cell-based AhR-binding bioassays)
論文の内容の要旨

 ダイオキシン類(PCDD/Fs及びCo-PCBs)の毒性はAhR(AhR;Aryl hydrocarbon receptor)を介して CYP1A1を始めとした関連遺伝子が誘導することにより発現すると考えられているが、このメカニズムの初期反応、 すなわちAhRとリガンドの結合に起因する応答を測定しようとするものがAhR結合アッセイである。

 本研究では、細胞を用いたAhR結合アッセイのひとつ、組み換えラット肝ガン細胞を用いたCALUX(Chemical Activated Luciferase Expression)アッセイを取り上げている。CALUXアッセイは、ダイオキシン類の毒性発現と同様に AhRを介して誘導されるルシフェラーゼの活性に基づく発光を測定する手法であり、国内外で規制対象とされている ダイオキシン類だけではなく、AhRを介した遺伝子発現活性(ダイオキシン様活性)を示す環境汚染物質(ダイオキシン類 縁化合物)を包括的に検出することができる。

 本研究では、有機性廃棄物コンポストを対象試料としてダイオキシン類の検出を目印としたCALUXアッセイ モニタリング手法の確立を第一に目指した。また、試料中に存在する未知のダイオキシン類縁化合物を把握する 手法について検討を行い、ダイオキシン様活性における化学物質間の複合効果の評価を試みた。
 博士研究の発表の流れを以下に示す。

 序論では、本研究の行われた背景について報告し、本研究の目的を明らかにすることを試みた。

 第2章では、CALUXアッセイによる化学物質標準品の活性評価を行い、ダイオキシン類及びダイオキシン類縁 化合物の検出法としての妥当性を評価した。
 ダイオキシン類は濃度依存的な応答反応を示し、化合物により活性を示す濃度が異なる結果が得られた。 ダイオキシン類間の感度差を数値化するため、ダイオキシン類と2,3,7,8-TCDDのEC(Effective concentration) 50値、EC20値及びEC5値の比較からCALUX-TEF(CALUXアッセイにおける 2,3,7,8-TCDD等価係数)を求めた。CALUX-TEFとWHOが設定しているダイオキシン類のTEF(毒性等価係数)は比較的 よく一致し、CALUXアッセイのダイオキシン類検出ツールとしての妥当性が示された。 多環芳香族炭化水素(PAHs)についても濃度依存的な応答反応が示され、ダイオキシン類縁化合物を包括的に検出する ツールとしてもCALUXアッセイが有効であることが考えられた。

 第3章では、有機性廃棄物及びそのコンポストを対象として段階的な試料調製を行い、ダイオキシン類検出を 目的としたモニタリングへのCALUXアッセイの適用性を評価した。
 硫酸シリカゲル加熱還流処理後に残留する難分解性化合物を含む酸耐性画分において、CALUX-TEQ(CALUXアッセイによる 2,3,7,8-TCDD当量)はWHO-TEQ(WHO-TEFと化学分析値より算出した毒性当量)の数倍程度の値を示し両者に相関が認められた。 酸耐性画分を用いることにより、ダイオキシン類をモニタリングできる可能性が示された。酸耐性画分における評価は 分析工程を短縮することや、僅か数g試料で1 pg-TEQ/gレベルのダイオキシン類を検出できることを示し、試料前処理の 簡易性や検出感度の点においても有用であった。酸処理を行わない粗抽出液のCALUX-TEQはWHO-TEQより2~4オーダー 高い値を示した。U.S.EPAが環境汚染物質として指定しているPAHsも粗抽出液に含まれることを考慮すると、この活性の 由来を追及していく意義があると考えられた。

 第4章では、し尿処理汚泥コンポストから調製した粗抽出液を対象として、ダイオキシン様活性に寄与する化合物を 把握し、ダイオキシン様活性における化合物間の複合効果を検証した。
 CALUXアッセイとオクタデシルシリカカラムを用いた高速液体クロマトグラフィー(HPLC)分画を組み合わせた手法を 適用すると、環境試料に存在するダイオキシン類縁化合物を疎水性に応じて分離することができ、それらの構成について 把握できた。さらに、本章では、本手法を用いてダイオキシン様活性における化合物間(2,3,7,8-TCDDとHPLC画分の 一部に含まれる化合物間)に非相加的な活性増加作用が示されることを実験的に示し、既知/未知活性物質が独立に 作用する毒性のみならず、それらが複合的に作用する毒性についても考慮すべきであると考えられた。

 第5章では、第4章において取り扱ったし尿処理汚泥コンポストを含むコンポスト5試料から調製した 粗抽出液を対象として、ダイオキシン様活性における含有化合物間の複合効果についてその原因とメカニズムを検討した。
 CALUXアッセイ及びCYP1Aの酵素活性を検出するEROD(ethoxyresorufin-О-deethylase)アッセイとニトロフェニル プロピルシリカカラムを用いたHPLC分画を組み合わせた手法は、難代謝性を示すハロゲン化PAHsと比較的代謝され易い PAHs,さらにPAHsを芳香環数に応じて分離することができ、試料中に存在するダイオキシン類縁化合物の構成を把握することに 有用であった。また、本章においては、本手法を用いてダイオキシン様活性における化合物間の複合効果に寄与する 要因について時系列の活性変化観察を踏まえた検討を行い、試料中に含まれる化合物群の代謝分解性が異なる場合や 急速に代謝分解が進行する場合において、化合物間の複合効果(非相加的な活性増加作用等)が示されることを示唆した。

 第6章では、本研究の成果をまとめ、今後の研究課題を挙げて、結論とした。