氏 名 若菜 千穂 本籍(国籍) 茨城県
学位の種類 博士 (農学) 学位記番号 連研 第327号
学位授与年月日 平成17年3月23日 学位授与の要件 学位規則第4条第1項該当 課程博士
研究科及び専攻 連合農学研究科 生物環境科学専攻
学位論文題目 農山村地域における生活交通サービスの再構築に関する研究
(Study on Reconstruction of Regional Transport Service in Rural Area)
論文の内容の要旨

 本研究は、農山村地域における生活交通サービスの実態を、利用者と供給者の両面から 多角的に分析し、望ましい生活交通サービスのあり方を検討するとともに、その実現のための具体策を提案したものである。 本研究によって得られた知見は以下の通りである。

 第1に、農山村地域の公共交通の主役である乗合バスサービスの展開を整理し、国による需給調整管理のもと 参入退出規制によるバス事業者の独占的・主導的な事業展開から、過疎化によって市町村による地域政策の一環による 供給体制へと変化した経緯を明らかにした。また、国の需給調整政策ならびに補助制度の大幅な見直しに伴って、 近年増加しつつある新しい生活交通サービス(コミュニティバス、需要応答型交通(DRT)、コミュニティ送迎サービス) について、その動向と特徴を整理した。

 第2に、農山村地域の生活交通サービスの主たる利用者である高齢者と子ども(小中高校生)を対象に、 アクティビティ・ダイヤリー調査等を用いた詳細な交通ニーズの把握を行った。その結果、生活交通ニーズは、 行き先である施設等の配置、具体的には、集落-大字-旧村-市町村-広域市町村といった農村生活圏として 把握できることがわかった。

 第3に、これら利用者の生活行動圏および運行主体と運行エリアに基づいて、生活交通サービスを 「広域交通」(都市間交通)、「市町村交通」(市町村中心から旧村中心まで)、「地区交通」(旧村中心から 自宅まで)に分類し、それぞれに見合った生活交通サービスの形態を検討した。すなわち、「広域交通」や 「市町村交通」は、通勤や通学需要を含むことから、ある程度の需要量を見込むことができると同時に、 定時運行が求められることから民間輸送事業者が中心となった定時定路線のバスサービスが適当であること、 「地区交通」は、高齢者中心でドア・ツー・ドアに近いサービスが求められるが、需要が小規模で分散していることから、 スクールバスや福祉バスと一般乗合バスの統合、需要応答型交通の導入、コミュニティ送迎サービスが適当であることを 明らかにした。

 第4に、「地区交通」の確保方策として、上記の3つのサービスに注目し、詳細な事例分析に基づいて 各サービスの導入の条件と課題を明らかにした。すなわち、統合については、生徒児童と高齢者を中心とした 一般利用者の居住地と目的地(学校や施設等)が同じ場所にあるか、もしくは同じ場所になくても効率的な運行を 可能にする路線上に位置し、かつ住宅が比較的密集しており、定路線運行が効果を持つ地域において導入が可能であること。 需要応答型交通は、住宅が分散し、固定路線が定まらない、平地型の集落や台地型の集落地域において導入効果が高いこと。 そしてコミュニティ送迎サービスについては、タクシーの営業区域外であり、ドライバーの確保が可能で(前期高齢者 人口が十分にある)、運行管理者として既存の組織団体への委託が見込め、かつ行政が事故補償の一部を負担する 体制がある場合に導入が可能であることである。他方、課題としては、市町村に交通問題の担当部局がないこと、 教育や福祉部局との連携が可能な対策チームの設置の必要性、需要の変化に対して柔軟に運行方法を変えていけるような 運営ならびに運営協議の場が必要であることを指摘した。