氏 名 丸山 立一 本籍(国籍) 北海道
学位の種類 博士 (農学) 学位記番号 連研 第324号
学位授与年月日 平成17年3月23日 学位授与の要件 学位規則第4条第1項該当 課程博士
研究科及び専攻 連合農学研究科 生物環境科学専攻
学位論文題目 北方針葉樹林の更新に関する研究
(Study of regeneration in a northern conifer forest)
論文の内容の要旨

 本研究の目的は、トドマツとエゾマツの実生定着過程を把握することである。トドマツと エゾマツの実生は倒木上に集中し、倒木を除く地表面には少ないことが知られている。そこで、1)針葉樹実生の 定着に及ぼす林床植生とリターの阻害効果、2)倒木上における針葉樹実生と稚樹の定着に及ぼす倒木の腐朽および 倒木上のコケ植物の阻害ないし促進効果を検討した。調査は北海道大雪山国立公園東部の針葉樹林において、 1989年から2002年までの13年間行った。

 1)実生の定着に及ぼす林床植生とリターの阻害効果を把握するために、まず、植物体地上部とリター層の 除去実験を行い、実生の定着が除去によって促進されるかを実験的に確かめた。さらに植生タイプ(ササ、スゲ、 シダ、疎植生)を異にする林床において、実生の発生と生存調査を行い、植生のタイプ、植被およびリターの 量が実際に実生定着に及ぼす影響を確かめた。除去実験から実生の定着に対して、植物体地上部もリター層も 障害物として働くことがわかった。植生タイプが異なる林床における実生の発生と生存調査から、針葉樹実生には ササだけでなく、ササ以外の植生タイプも同じように阻害効果があることが分かった。以上より、阻害効果は、 植生現存量が大きいほど、またリター層が厚いほど強くなり、植生タイプには影響されなかった。また、 疎植生区では発生したトドマツ実生が12年間生存したこと、および植生とリター層の除去実験結果より、 トドマツの定着は植被率が50%未満であればわずかながら可能であると考えられた。エゾマツは地表面の どの植生タイプでも発生が少なく、発生した実生も1年後には全くみられなくなったことから、地表面での定着は ほとんど不可能であった。除去実験の結果から、ほとんど不可能となるのはリター層の存在であることが明らかになった。 確かに実生定着基質として倒木が重要であることは本調査地でも確認された。しかし、非倒木地表面の方が面積の 85%を占めることから、林床植生の状態が林内における針葉樹実生の定着数を増減させることがわかった。 この結果は、実生段階における林床植生の状態に対する両種の挙動の違いが針葉樹実生の構成比を決め、ひいては 林冠層構成比に影響を及ぼす可能性を示唆するものである。

 2)倒木の腐朽および倒木上に生育する植物の変化が、倒木上における針葉樹実生と稚樹の定着に及ぼす影響を 把握するため、腐朽に伴って変化する倒木表面のコケの種類、コケの量の変化、および樹皮の有無と、トドマツと エゾマツの定着数および生存率との関係を調べた。倒木上の稚樹の蓄積は腐朽初期段階の倒木で増加し、腐朽が 進んだ倒木では減少した。腐朽初期段階における実生の発生率はエゾマツの方が高く、腐朽が進んだ倒木では トドマツの方が高かった。エゾマツは樹皮のある倒木上で稚樹密度の増加が大きく、樹皮がないと増加量は小さかった。 また、トドマツは連年的に定着しているのに対し、エゾマツは特定の期間に集中的に定着する傾向が示された。 生存率に関しては、腐朽初期段階では両種とも違いがなかったが、腐朽が進んだ倒木ではトドマツの方が高かった。 実生の発生もトドマツの方がエゾマツよりも腐朽の進んだ倒木上に多いことから、トドマツはより腐朽の進んだ 倒木にも定着できることが明らかになった。これらのことから、倒木への定着期間はトドマツの方が長く、 エゾマツは倒木表面の樹皮の有無によりその期間が異なることが示された。腐朽初期段階における倒木表面の樹皮の 有無によりその期間が異なることが示された。腐朽初期段階における倒木表面の樹皮の有無によりその期間が異なることが 示された。腐朽初期段階における倒木表面の樹皮の有無によりコケの発達状況が異なるため、トドマツとエゾマツの 定着環境も異なる。そのため、樹皮が付いた倒木の場合、コケが厚く堆積しやすく、倒木表面はトドマツ、エゾマツの どちらにも定着に適した環境になり、どちらかが倒木上を優占する。しかし、樹皮がない倒木の場合、コケの厚さは 薄い状態が継続し、トドマツのみの定着可能期間が長く、トドマツが優占する倒木となることが予想される。 倒木表面の樹皮の有無は倒木の発生要因によって異なるので、針葉樹の実生数は攪乱の起き方および規模によって 異なってくるに違いない。エゾマツの更新には台風や強風などによる生立木の倒壊によって樹皮の残った倒木の発生が 必要で、それにより、まず待機稚樹群を形成し、その後大きな攪乱が生じた時点で林冠に達することが可能になる。 一方、トドマツはエゾマツと同じ更新過程だけでなく、寿命や病害などによる立枯れにより生じた樹皮のない 倒木上にも待機稚樹群を形成することができる。このことはトドマツとエゾマツが共存する上での重要な要素に なりうると考える。

 3)地表面に更新している稚樹の根を掘ったところ、先端には全て倒木の材が確認され、地表面上に更新している 稚樹も過去には倒木上にあったものがほとんどであることが明らかとなった。これまで針葉樹稚樹が地表面上に 更新していることを報告している論文が多数ある。しかし、更新場所を評価するためには、地下部の材の有無を 確認しない限り確かなことはいえないことが示され、今後、地表面からの更新については、再検討する必要がある。