氏 名 半田 智一 本籍(国籍) 秋田県
学位の種類 博士 (農学) 学位記番号 連研 第321号
学位授与年月日 平成17年3月23日 学位授与の要件 学位規則第4条第1項該当 課程博士
研究科及び専攻 連合農学研究科 生産環境科学専攻
学位論文題目 ヤグルマソウおよびヒバ葉圏における微小菌類の遷移に関する研究
(Studies on microfungal succession in phyllosphere of Rodgersia podophylla and Thujopsis dolabrata var.hondae)
論文の内容の要旨

 本研究は植物体葉圏における微小菌類の遷移現象を調査研究したものである。 調査対象の植物として、第Ⅰ章では草本植物のヤグルマソウ、また第Ⅱ章では大本植物のヒバを取り扱かい、 それぞれについて体系的な菌類遷移現象を明らかにした。以下より各章のタイトルおよび要旨を示す。

Ⅰ.スギ人工林林縁のヤグルマソウにおける微小菌類相の遷移
 青森県弘前市久渡寺のスギ人工林林縁における林床植物ヤグルマソウの地上部について微小菌類相を研究した。 生育期間中の5~10月、葉からはNigrospora spp.が優占的に分離され、一方茎ではAcremonium spp. とFusarium spp.が優占菌であった。このことから約1mの高さであるヤグルマソウ地上部は、 それぞれ異なる優占菌に対して生息場所を与えることが示された。9月および10月における枯死中の葉における葉組織を、 茶色部(壊死斑組織)、黄色部(茶色と緑色の境界組織)および緑色部(健全組織)の3種類の組織に区別し、 それぞれから菌類の分離を行った。その結果Nigrospora spp.およびPestalotiopsis spp.が 茶色部のみならず緑色部および黄色部の組織からも連続的に分離された。またN.sacchari および P.neglecta の病原性が鉢植えの本植物への接種試験によって証明された。これらより上記2属の性質は、 葉の組織老化によって休止から病原性へ変化したと考えられた。2属による分生子形成が本植物の越冬茎において確認された。 よって、それらの菌類は比較的硬く分解されにくい茎中で越冬したかもしれず、翌春に葉へと移動すると考えられた。 そのため、それらは本植物の分解において重要な役割を担う弱い寄生菌の候補であるかもしれない。本植物からの 分離菌は23属43分類群に同定された。また本植物枯死葉上に未知の微小担子菌Flagelloscypha sp.を 発見記載した。

Ⅱ.ヒバ枝葉における微小菌類集団の遷移
 青森県弘前市久渡寺山におけるヒノキ科針葉樹のヒバ枝葉における微小菌類のフロラ、遷移および生態を調査するために、 当年枝葉、1年枝葉、数年枝葉、枯死枝葉およびリター枝葉の5種類から分離試験を行った。当年枝葉から数年枝葉において 優占的であったCordyceps sp.、Nemania sp.-1、Nemania sp.-2、Xylaria sp. F6、 Acremonium strictum の5菌は、新たにヒノキ科の頻出内生菌として追加された。優占的な内生菌のうち Nemania sp.-1、Nemania sp.-2、Xylaria sp. F6はXylaria科に所属し、本科の広範な分布と 宿主に関する従来の知見をさらに支持した。各種類の枝葉における微小菌類相の比較からヒバ葉における遷移現象は、 3ステージに区別された。第1ステージは内生菌、第2ステージは条件的腐生菌、第3ステージは腐生菌によるものであった。 枯死枝葉とリター枝葉は共通の腐生菌を含むことが判明し、枯死枝葉が樹上に存続している期間からリター枝葉由来の 腐生菌への遷移が既に進行していることが示唆された。このような遷移は、マツ科およびブナ科植物では地表の 新鮮なリターにおいてはじめて起こる遷移現象である。しかし、1および2ステージに優占的であった内生菌および 条件的腐生菌のいくつかの種も、リター枝葉に至って連続的に定着していることが示された。このような遷移現象は、 長期間樹上に存続するヒバ樹葉に適応した微小菌類集団の生態を反映すると考えられた。