氏 名 荒井 茂充 本籍(国籍) 北海道
学位の種類 博士 (農学) 学位記番号 連研 第320号
学位授与年月日 平成17年3月23日 学位授与の要件 学位規則第4条第1項該当 課程博士
研究科及び専攻 連合農学研究科 生産環境科学専攻
学位論文題目 リンゴ黒点病の発生生態と防除法に関する研究
(Studies on the ecology and control of Brooks fruit spot of apple caused by Mycosphaerella pomi (Pass.) Lindau)
論文の内容の要旨

 リンゴ黒点病(病原菌:Mycosphaerella pomi (pass.) Lindau) の発生生態および 防除法に関する一連の研究を行った。

1.病徴および病原菌
 最近の主要なリンゴ品種における病徴を詳しく観察記録した。果実ではいずれも果点(気孔)を中心として生じ、 果点(気孔)からは菌糸が伸長し、菌糸上にCylindrosporium 型分生子を生じていた。葉では8月上旬~ 下旬から1~3mm、不正形、紫褐色の斑点を生じ、しばしば癒合して大型の病斑となった。時に褐色~灰褐色の 壊死部をともなっていた。葉の紫褐色病斑部では気孔から菌糸が伸長し、この菌糸上にCylindrosporium 型分生子を生じ、また壊死部では気孔直下の呼吸腔部に子座を形成し、気孔部にCylindrosporium 型 分生子を生じていた。落葉間もない罹病葉の病斑上には本菌の精子器(spermogonia)世代を生じること、また Brooks and Black(1912)が貯蔵果実で発見した“Phoma 型分生子”世代も同様に精子器世代に相当することを 明らかにした。病原菌は越冬罹病落葉および罹病落下果実の病斑上で越冬し翌年の4月下旬頃から成熟偽子のう殻を生じた。 罹病落下果実では越冬後5月、病斑上にCylindrosporium 型分生子を生じた。この分生子は第一次伝染源として 働くこと、また生育期の罹病果実や罹病葉の病斑上に生じたCylindrosporium 型分生子は第二次伝染源として 働くことが示唆された。枝は圃場観察および接種試験により発病しないことを確認した。

2.病気の発生生態
 子のう胞子は4月下旬または5月上旬から7月中下旬までの、主として降雨日に飛散し、飛散最盛期は5月中旬~ 6月上旬であった。降雨前に湿度が高まった頃からわずかに飛散しはじめ、降雨が始まって間もないころの飛散量が もっとも多かった。また相対湿度100%の条件下では飛散量は概して少ないが、長時間連続して相対湿度100%で 推移した場合は多量の子のう胞子が飛散した。子のう胞子は昼間夜間のいずれでも飛散し、光による影響はないと 考えられた。

 無防除のリンゴ圃場から採取した果実および葉の表面において、病原菌子のう胞子から生じた菌糸上に 本菌のCylindrosporium 型分生子が形成されていることを発見した。接種試験により、この分生子は 本病の第二次伝染源として働いていると結論された。病原菌は果実および葉のいずれにおいても気孔から侵入し、 それ以外の部分からの侵入は認められなかった。

 圃場における果実感染はリンゴの落花後間もない頃(5月中下旬)から始まり、落花10日後~30日後が多く、 その後7月中旬まで続いた。果実の感受性は5月下旬頃~6月中下旬が高くその後順次低下するが、7月中旬においても 程度は低いが感受性が保たれていた。

 リンゴ品種の本病感受性は‘紅玉’に比べ、‘陸奥’、‘つがる’、‘ジョナゴールド’および‘あおり13’は 同等~やや高く、‘王林’、‘ふじ’および‘北斗’は低く、‘国光’および‘スターキングデリシャス’は著しく低いと考えられた。 ‘千秋’、‘あおり9’および‘金星’は、概ね‘ふじ’程度であると考えられた。

 セイヨウナシ、ニホンナシ、マルメロおよびカリンは本菌の共通宿主であることを明らかにした。 これら宿主の越冬罹病落葉上には偽子のう殻が形成され、ここから飛散した子のう胞子は共通宿主いずれもの 感染源となると考えられた。なお、罹病した果実はいずれでも黒色斑点を生じることから、病名はリンゴ病害に準じて 「黒点病(セイヨウナシおよびニホンナシ:Mycosphaerella fruit spot、マルメロ:blotch、カリン:fruit spot)」とした。

3.防除法
 青森県の黒点病多発地では、リンゴ落花期頃から30日後頃まで10日間隔で「落花直後頃」、「落花10日後頃」、 「落花20日後頃」および「落花30日後頃」にそれぞれ薬剤散布する防除体系が採られる。そこで減農薬および 省力化の観点から、本病多発地において「落花10日後頃」と「落花20日後頃」の散布を「落花15日後頃」に 統合した散布回数を1回削減した防除体系を確立することを目標に試験を実施した。本病の発生に好適な気象・ 環境条件下においても散布後15日間安定した残効性を有するDMI(ステロール脱メチル化阻害剤)混合剤として、 ジフェノコナゾール・マンゼブ水和剤500倍を検索した。2000~2002年、圃場においてスピードスプレーヤを 用いた大規模な防除試験で本剤の防除効果を実証し、2003年から青森県において本病多発地の防除剤として採用した。 これにより本病多発地における「落花10日後頃」と「落花20日後頃」の散布を「落花15日後頃」に統合し、 散布回数を削減した防除体系の実現に寄与した。