プレオスポラ目菌は子のう菌門、子のう菌綱、クロイボタケ亜綱に所属し、２０科・２００属・ １８７０種からなる菌界の巨大な１目である。本菌群は陸上の植物体のほか、土壌中、糞上、地衣上、あるいは 淡水や海水など広い生息域をもつが、日本における本菌群の研究は、主として植物病理学的見地から行われてきたため、 確認できている種数は２２０種程度であり、基本的な分類学的資料はほとんど無いといえる。

　現在日本において確認されている菌類の総種数は14000種といわれている。これは世界全体における菌類 総見積り種数の0.9%にしか相当せず、さらなるインベントリー的研究が求められている。プレオスポラ目菌は その構成種数の点で、菌界の中でも主要な菌群といえ、本菌群についての基礎的なリストが作成されれば、今後の 日本における菌類の多様性把握に関する情報が、飛躍的に増加するものと考えられる。よって、本研究では、 日本産プレオスポラ目菌のモノグラフ作成を目標として、分類学的研究を行った。特に新分類群の発見が期待できる、 ササ・タケ生菌類ならびに淡水生子のう菌類の採集を重点的に行った。

　その結果、約1100標本、１７０菌株のプレオスポラ目菌が得られ、１２科・４８属・１６７種が本研究により確認された。 これらのうち、Katumotoa, Neomassarina, Periconiosphaeria, Tetraplosphaeria, Triplosphaeria, Multiplosphaeria, Piricaudiosphaeria の７属を新属とした。また、Lophiostoma mucosum, L. breviappendiculatum, Lophiotrema vitigenum, Massarina constricta, M. japonica, M. submediana, M. uniserialis, M. magniarundinacea, M. clionina, M. helminthospora, Masssariosphaeria moricola, M. megaspora, M. maxima, Caryospora pseudoaustraliensis, Trematosphaeria biappendiculata, T. crassiseptata, Katumotoa bambusicola, Asteromassaria macroconidii, Pleomassaria swidae, Prosthemium canba, Neomassarina truncata, N. appendiculata, Periconiosphaeria digitata, Tetraplosphaeria pseudotetraploa, T.nagasakiensis, Triplosphaeria maxima, Multiplosphaeria fusca, Piricaudiosphaeria bambusae の２８種を新種とした。さらに、Massarina ryukyuensis(≡Metasphaeria ryukyuensis), Massarina scirpina(≡Leptosphaeria scirpina), Massariosphaeria clavispora(≡Hysterium clavisporum), Astrosphaeriella aggregata(≡Melanopsamma aggregata), Kalmusia acabrispora(≡Leptosphaeria scabrispora), Splanchnonema mori(≡Massaria mori), Tetraplosphaeria tetraploa(≡Massarina tetraploa), Triplosphaeria cylindrica(≡Massarina yezoensis), Triplosphaeria yezoensis(≡Didymella yezoensis) の９種について 新組み合わせを提案した。これらの他、５７種は日本新産種であった。過去に日本においてLophiosphaera orientalis （コウヨウザン葉枯病菌）、Nodulosphaeria araucariae （パラナマツ葉枯病菌）、N. rosae （バラに発生）として記録されていた３種は、基準標本の再検討からLophiotrema Leptosphaeria lelebae は Phaeosphaeria oryzae の異名として処理された。

　ササ・タケ生菌類としては４１種のプレオスポラ目菌が確認され、このうち48.8%は新規性のある種（新分類群 および日本新産種）であった。同様に淡水生子のう菌としては４７種のが同定され、このうち72.3%に新規性が認められた。