氏 名 魚住 恵 本籍(国籍) 岩手県
学位の種類 博士 (農学) 学位記番号 連研 第317号
学位授与年月日 平成17年3月23日 学位授与の要件 学位規則第4条第1項該当 課程博士
研究科及び専攻 連合農学研究科 生物資源科学専攻
学位論文題目 野菜の加熱軟化に及ぼす大豆添加の影響
(The Effect of the Addition of Soybeans on the Softening of Vegetable during Cooking)
論文の内容の要旨

 大豆とともにゆでた野菜や海藻の軟化が、ダイズを加えずに茹でた場合と比較して著しく 促進される原因は、ダイズから茹で汁中に溶出してくるダイズ成分にあると考えられるが、それが何によるかは不明である。 ダイズ添加が植物性食品の加熱軟化を促進する因子およびその軟化促進作用の発現機構を明らかにする目的で本研究を行った。

<第1章>:大豆茹で汁及びその分画を用いてニンジンを加熱し、テクスチャーを測定し、大豆添加が植物性食品の 加熱軟化に与える影響を調べた。
1)大豆茹で汁で加熱すると急速に硬さが低下するとともに、水煮では見られない凝集性の低下がおこる。 その作用は大豆茹で汁の濃度に依存する。
2)大豆茹で汁中の加熱軟化促進因子は、冷水可溶性の上澄画分に含まれる。

<第2章>:大豆茹で汁上澄をイオン交換処理し、得られたイオン交換処理溶液、及び大豆茹で汁に含まれる 最大濃度と考えられたカリウムを含むKCl溶液を用いてニンジンの加熱軟化実験をおこなった。
1)上澄中でもっとも多いのはカリウムであり、次いでマグネシウム、カルシウム、ナトリウムの順である。
2)脱陰イオン溶液で加熱したものの凝集性は、水で加熱した場合より低下するが、KCl溶液ではほとんど低下しない。

<第3章>:大豆茹で汁の各画分に含まれる有機物を赤外分光法にて調べ、想定された化合物である糖類と KCl溶液との、ニンジンの加熱軟化における相互関係を調べた。
1)大豆茹で汁上澄とその画分に含まれる有機物は、ほとんどが糖質である。
2)蔗糖はカリウム溶液によるニンジンの加熱軟化促進効果に影響を与えないが、ペクチンは、カリウム溶液による ニンジンの加熱軟化促進効果を抑制する。

<第4章>:大豆茹で汁上澄およびその脱イオン処理画分に含まれる糖関連化合物であるフィチン酸の量を測定し、 フィチン酸カリウム塩溶液を用いて、ニンジンとゴボウの加熱軟化実験をおこなった。
1)フィチン酸塩溶液はニンジン・ゴボウの加熱軟化を促進し、その作用は凝集性の低下を伴い、濃度依存性が 認められることから大豆茹で汁中の加熱軟化促進因子と考えられる。
2)弱酸性フィチン酸塩溶液で加熱したニンジンの軟化度は、水で加熱した場合と同程度であり、その前後のpHでは 軟化が促進される。さらに、フィチン酸塩溶液でニンジンを60℃予加熱すると加熱軟化阻害が起こるが、予加熱時間が 短いと水で加熱した場合より軟化が促進される。これらの現象と軟化促進作用の濃度依存性から、フィチン酸による 加熱軟化促進作用は、ペクチン質のβ-脱離の促進ではなくカルシウム架橋の除去と考えられる。