氏 名 野崎 浩文 本籍(国籍) 北海道
学位の種類 博士 (農学) 学位記番号 連研 第316号
学位授与年月日 平成17年3月23日 学位授与の要件 学位規則第4条第1項該当 課程博士
研究科及び専攻 連合農学研究科 生物資源科学専攻
学位論文題目 Profiles of N-acetylglucosaminyltransferase I (GnT I) Activities in Mammalian Reproductive Bodily Fluids
(哺乳類の生殖生理に係わるN-acetylglucosaminyltransferase I (GnT I) 活性の動態)
論文の内容の要旨

 本研究は、糖タンパク質N-型糖鎖のオリゴマンノースタイプからコンプレックスタイプ およびハイブリッドタイプへの変換の第一段階を司るN-acetylglucosaminyltransferase I(GnT I:EC 2.4.1.101) 活性に着目し、同酵素の生殖生理への係わりを考察する目的においてラット精巣網液ならびに精巣上体液、 ウシ優性卵胞と閉鎖卵胞の卵胞液(bFF)、ウシ卵管上皮細胞の培養上清中の同酵素活性に有無およびその生化学的 特徴を解析した。

 精巣上体通過中に起こる精子の受精能獲得への生化学的変化の一部には、精巣網液中ならびに精巣上体液の 酵素と精子表層成分との相互作用の結果生じた成分の変化があり、それには精子表面の糖鎖構造の変化が含まれる。 本実験によって始めて、両体液中にGnT I活性が存在することが判明した。GnT I活性の至適pHは精巣網液では 6.0を、精巣上体液では7.0を示した。精巣網液中GnT I活性はCo2+>Mn2+>Mg2+ >Ca2+の順でこれらのカチオンに要求性を示したが、精巣上体液中のGnT I活性はMn2+> Ca2+の順で両カチオンにのみ要求性を示した。α1-3α1-4マンノペンタオースに対する各Km値は 精巣網液が0.57mM,、精巣上体液が0.37mMであった。両体液中GnT I活性ともそれぞれα1-3α1-6マンノペンタオース> α1-3α1-6マンノトリオース>α1-3マンノビオース>α1-6マンノビオースの順に親和性を示した。 精巣網液及び精巣上体液でのGnT Iの比活性は、精巣上体液の方が若干高かった。

 ついで、ウシ優性卵胞と閉鎖卵胞のbFF中にGnT I活性を検出した。両GnT I活性は同じ生化学的特徴を有しており、 それらの特徴は既知のGnT I活性のものと類似していた。至適pHを5.8に示し、二価金属イオン絶対依存性 (Co2+>Mn2+>Mg2+)と基質特異性(α1-3α1-6マンノペンタオース> α1-3α1-6マンノトリオース>α1-3マンノビオース)を示した。α1-3α1-6マンノペンタオースに対するKm値は 2.17mMであった。卵胞直径に係わらず卵胞選抜にて淘汰された閉鎖卵胞のbFF中GnT Iは、選抜された優性卵胞の bFFのそれよりも顕著に高かった。さらに優性卵胞のbFF中GnT I活性は、排卵誘起に不可欠な現象である Luteinizing hormone (LH) surgeによる影響を全く受けないことが、本実験にて始めて明らかになった。 以上の結果から、閉鎖卵胞のbFF中GnT I活性の顕著な亢進は卵胞閉鎖(アポトーシス)特異的な現象であることが考えられた。

 さらに体液中 GnT I活性が性周期により厳密に調節されているかどうかの調査を、ウシ卵管上皮細胞を用いて行った。 卵胞期に採取したウシ卵管上皮細胞を培養し、その培養液からGnT I活性を検出した。このGnT I活性は、卵管上皮細胞を LH(10ng/ml)で24時間刺激するとわずかに上昇したが、LH+17β-estradiol(E2; 1ng/ml)で刺激するとさらに大きく 上昇した。同様に、tumor necrosis factor(TNF)αあるいはvascular endothelial growth factor(VEGF)で 刺激した場合にも活性が大きく上昇した。以上の結果から、ウシ卵管上皮細胞は培養条件下でGnT Iを分泌することが 始めて示された。さらに、卵胞期から排卵期に活発になる内分泌因子(LH,E2)や卵管内局所因子(TNFα,VEGF)が 培養卵管上皮細胞からのGnT Iの分泌を刺激することから、生体内でのウシ卵管液中のGnT I活性は排卵前後に著しく 上昇するものと考えられた。