氏 名 | グェン ヒェン チャン NGUYEN HIEN TRANG |
本籍(国籍) | ベトナム |
学位の種類 | 博士 (農学) | 学位記番号 | 連研 第314号 |
学位授与年月日 | 平成17年3月23日 | 学位授与の要件 | 学位規則第4条第1項該当 課程博士 |
研究科及び専攻 | 連合農学研究科 生物資源科学専攻 | ||
学位論文題目 | STUDIES ON THE PRODUCTION OF FERMENTED MEAT SAUCE "SHISHIBISHIO" (食肉の発酵調味料“肉醤”の製造に関する研究) |
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論文の内容の要旨 | |||
世界の代表する発酵調味料に醤油、魚醤がある。醤油は穀物(大豆-植物性蛋白質)を原料とし、 麹菌を利用して作られるものである。動物性蛋白質を主原料とした発酵調味料は、魚介類から作られる魚醤がある。 醤油は主に日本、韓国および中国で、魚醤は主に東南アジアの国々で用いられている。醤油および魚醤に関する研究は 今までたくさん行われている。一般的に伝統的な醤油と魚醤の製造期間は9~18ヶ月間ぐらいかかる。そのため タンパク質分解酵素の添加は発酵過程の速醸および風味の改良のために用いられる。日本の古代社会において 食肉を原料として作った肉醤(ししびしお)と呼ばれる発酵調味料が存在したが近年では製品として存在せず、 製造要件も不明である。近年、Nakamuraら(1985)による食肉・畜産副生物などを原料とした発酵調味料に関する 報告などが存在する程度である。 本研究の目的は、低利用性の畜産副生物やくず肉などを原料とした発酵調味料を作ることができれば、 調味料の幅が広がるばかりでなく、価値が低い食肉に付加価値を与えることができる。本研究では、このような 食肉由来の発酵調味料を作製する基本的な知見を得るために未加熱の食肉に市販酵素および麹を加え、発酵調味料を 製造し、得られた製品の諸性質を検討した。 発酵調味料“肉醤”を作るため、豚挽肉を原料として用い、これに水を加えない時あるいは加えた時(豚挽肉と 水を2対1)の実験を行った。腐敗細菌を抑制するため、食塩は15,20あるいは25%加えた。 麹はAspergillus oryze を接種した米麹であり、タンパク質分解酵素を含んでおり、風味改善のために10%加えた。 さらに風味改善のために胡椒も0.5%加えた。市販酵素は、Alcalase 2.4L あるいは Pectinase 3S を用いた。 Alcalase 2.4Lは液体のendoproteaseであり、他のproteaseと比べてタンパク質加水分解が強く、苦みを出さず、 0.5%添加した。Pectinase 3Sはペクチン分解が主であるがタンパク質分解作用もあるため用い、0.25%添加した。 対照区は酵素を加えないものである。これらを混ぜてもろみとし、30℃で貯蔵した。1ヶ月後にはもろみを 2等分にし、一部にFlavourzymeを0.5%添加した実験も行った。0,1,2,3,6ヶ月後にもろみの一部を取り出し、 遠心し、ろ過してから得られた液体を肉醤とした。 本研究で①肉醤の発酵過程における市販酵素の影響(Alcalase 2.4L および Pectinase 3S); ②風味改善のための 検討(Flavourzyme 500L との組合せ);③肉醤の収率、タンパク質回収率の向上などを目的とし検討した。 得られた結果は以下の通りである。 1.発酵が進むにつれて、細菌数は下がり、6ヶ月後に一般生菌数について、300以下から103まで 存在したが、水を添加した時は3~8×102 と多くなった。3~6ヶ月目では、いずれも大腸菌群は 検出されなかった。これらの結果から肉醤は微生物学的に安全なものと考えられた。 2.酵素添加区は対照区と比べ、得られた肉醤の収率、タンパク質回収率、窒素量および総遊離アミノ酸量は 有意に高かった。特に収率およびタンパク質回収率は対照区と比べ、2~3倍多かった。また、これらは15% 食塩濃度の時が最も高く、次に20%および25%であった。これらの結果から酵素添加により、15%の食塩濃度で タンパク質の分解が効率的であった。 3.酵素添加区の間では、Pectinase 3S添加区はAlcalase 2.4L添加区に比べ、ペプチド量が有意に低かったが、 総遊離アミノ酸量が有意に高かった。しかし、官能検査の結果は、Pectinase 3S添加区とAlcalase 2.4L添加区の 間ではほとんど同じ評価があった。 4.水を添加した時の肉醤は窒素量、ペプチド量、総遊離アミノ酸量は低かったが、得られた肉醤の収率および タンパク質回収率は、それぞれ14~15%および10~17%多かった。 5.Flavourzyme 500L を添加すると得られた肉醤の収率およびタンパク質回収率は増える傾向が見られ、 総遊離アミノ酸量は有意に高く、風味改善に良い結果を示した。さらに、Flavourzyme 500L 添加区の官能評価は良かった。 これらのことからFlavourzyme 500L の添加はタンパク質分解を促進し、遊離アミノ酸を多くすることが出来た。 6.官能検査について、対照区より酵素添加区が良い評価であった。水を添加しない時は15%食塩濃度が 最も良い味で、25%食塩濃度はしょっぱく、悪い評価であった。しかし、水を添加した時は15%食塩濃度では ガスの発生が見られ、匂いがあまり良くなく、20%食塩濃度のものが最も良かった。 |