氏 名 | 内沢 秀光 | 本籍(国籍) | 青森県 |
学位の種類 | 博士 (農学) | 学位記番号 | 連研 第312号 |
学位授与年月日 | 平成17年3月23日 | 学位授与の要件 | 学位規則第4条第1項該当 課程博士 |
研究科及び専攻 | 連合農学研究科 生物資源科学専攻 | ||
学位論文題目 | 貝類の凍結処理による成分変化とその利用に関する研究 (Studies of Changes in the Extract of Shellfish by Freeze Processing and Their Utility) |
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論文の内容の要旨 | |||
季節変動や収穫後の砂抜き方法、貯蔵方法などの前処理の違いによるシジミ抽出液の成分変化を 比較検討していたところ、アミノ酸の一種であるオルニチン含量の少ない抽出液と多い抽出液があることに気がついた。 文献調査の結果、水産物の鮮度低下とオルニチン含量の増加に関する数多くの報告が存在した。 またオルニチンは微生物により産生されることが知られており、オルニチン発酵は産業的にも応用されている。 これらのことから、シジミ抽出液のオルニチン含量が増加した理由は、シジミの鮮度が低下したことによる死後の 自己消化や微生物の増殖によるものではないかと考えられた。しかし、新鮮なシジミを用いても、オルニチン含量の 少ないものと多いものが得られたことから、鮮度以外の要因によることが明らかになった。そこで、シジミ収穫後の 処理方法と抽出液のオルニチン含量を詳細に検討した結果、収穫後冷凍せずに抽出した場合はオルニチン含量が少なく、 冷凍したシジミから得られた抽出液は高くなることを見出した。また、冷凍によりオルニチン含量は4倍以上に 増加するが、それ以外のアミノ酸はβ-アラニンを除きほとんど変化せず、オルニチンに極めて特徴的な現象であった。 同様の操作をホタテ、アサリおよびハマグリを用いて試みたが、オルニチン含量に変化はなく、冷凍処理による オルニチン含量の増加はシジミに特徴的であることが明らかになった。 シジミの冷凍処理によりオルニチン含量が増加することから、オルニチンの生理機能に関する文献を検索していた ところ興味深い報告に出会った。須田らは、各種アミノ酸およびアミノ酸混合液を用いてマウスへの大量エタノール 投与試験における効果を検討し、アラニンとオルニチンのモル比が4対1の組み合わせに著しい救命効果があることを 報告している。シジミ抽出液に含まれる最も多い遊離アミノ酸はアラニンである。抽出液にはオルニチンも含まれて いるがその量は少ない。そこで、シジミを冷凍処理しオルニチン含量を増加させアラニンとオルニチンのモル比を 4対1に調整した抽出液を用いて、須田らと同様にマウスへの大量エタノール投与試験における効果を検討した。 その結果、オルニチン含量を増加させることでマウスの救命効果が高まることが明らかになった。この結果から、 オルニチン含量の高い抽出液の一つの有用性が示された。 そこで、オルニチン含量を増加させるシジミ収穫後の処理条件をさらに検討した。シジミの処理温度を 4℃から-10℃まで2℃きざみに設定し、抽出液のオルニチン含量の変化を調べた結果、-2℃では増えずに -4℃で顕著に増加し、-6℃以下よりも高くなることを見出した。このことから、オルニチン含量を増大させる ためには-4℃が最適であることが明らかになった。また、-4℃での処理においては24時間後にオルニチン含量は 最大となった。さらに、-4℃で16時間処理しオルニチン含量を増加させた後、5℃あるいは15℃にすると オルニチン含量は減少するが、再び-4℃にするとオルニチン含量は増加した。このことから、環境温度により オルニチン含量が変化し、オルニチン含量はシジミによって制御されている可能性が示唆された。 そのメカニズムを解明する手がかりとして、オルニチン含量の増加がシジミの組織で異なるのか、組織ごとの 冷凍処理によるオルニチン含量の変化について検討した。その結果、筋肉組織である足と貝柱で顕著に増加している ことが分かった。さらに、シジミの生息環境である汽水域との関連性が示唆された。 さらに、シジミ抽出液のオルニチン含量を増加させる方法を種々検討していた過程で、シジミ抽出液を 加水分解するとオルニチンが生成することを見出した。このことは、加水分解処理によりオルニチンを生成する 前駆物質が抽出液中に存在することを示している。オルニチンは一般にタンパク質を構成するアミノ酸ではないことから、 オルニチン含有物質の構造に興味が持たれた。そこで、シジミ抽出液からオルニチン含有物質の分離精製を試み 構造解析の結果、これまで報告の無いトリペプチド(β-A1a-0rn-0rn)であることが明らかになった。 さらに、シジミを低温処理するとβ-A1a-0rn-0rnが分解されてβ-アラニンとオルニチンが生成することが示唆された。 -4℃処理によりオルニチンおよびβ-アラニン含量が増加すると、逆にβ-A1a-0rn-0rn含量が減少する。 β-A1a-0rn-0rnに生理機能については今後の課題であるが、オルニチンおよびβ-アラニンとβ-A1a-0rn-0rnの どちらの生理機能を優先するかにより、低温処理するかしないかを選択することになるであろう。今後は、 本論文で明らかになったシジミを凍結処理するとβ-A1a-0rn-0rnが分解されてβ-アラニンとオルニチンが生成するという 成分変化を利用した新商品の開発を行っていきたいと考えている。 |