氏 名 高田 美信 本籍(国籍) 秋田県
学位の種類 博士 (農学) 学位記番号 連研 第309号
学位授与年月日 平成17年3月23日 学位授与の要件 学位規則第4条第1項該当 課程博士
研究科及び専攻 連合農学研究科 生物資源科学専攻
学位論文題目 自家不和合性アブラナBrassica rapa L.におけるS遺伝子座に座乗する遺伝子並びに 新規種内一側性不和合性を支配する遺伝子の分子遺伝学的解析
(Molecular and genetic characterization of S locus genes and novel intra-species unilateral incompatibility gene in self-incomppatible Brassica rapa L.)
論文の内容の要旨

 本研究では、アブラナ科植物の生殖システム、特に受粉時に花粉と柱頭で起こる不和合性に関して 自家不和合性と一側性不和合性に注目し、解析を行った。

 第1章では、B.rapa S 32、S 33、S 36系統はいずれもゲノム中にSLG遺伝子が 存在しないにも関わらず、その自家不和合性反応は正常であった。SLGの正確な機能については、現在まで分かっていないと 言わざるをえない。SRK-SP11という認識複合体を補助する機能があるとする報告(Takasaki et al. 2000, Dixit et al. 2000)が ある一方で、本研究の様に自家不和合性の自他認識には、その存在の有無は関係ないという報告もなされている (Okazaki et al. 1999, Suzuki et al. 2000)。しかしながら、柱頭上での非常に強い発現や、S 遺伝子座に 強く連鎖して存在していること、ほとんどのS 遺伝子型に存在していることなどから、アブラナ科の 自家不和合性を含む何らかの生殖機構に機能していると考えられる。柱頭上には、SLG と相同な遺伝子が 数多く存在していることもまた明らかになっており、SLG 機能欠失系統ではそういった遺伝子が相補的に 働いているのかもしれない。

 第2章では、B.rapaA. thaliana の遺伝子座周辺領域の比較ゲノム構造解析を行い、 その領域でのシンテニーの存在を明らかにするとともに、A. thaliana ではSRK, SP11, SLG といった 遺伝子がこの領域において欠失していることを明らかにした。

 第3章では、B.rapa の栽培品種である「おそめ」とトルコから採種された系統との間に新規な 種内一側性不和合性が存在していることを明らかにした。また、この一側性不和合性の花粉、柱頭両制御因子が S遺伝子座と連鎖しないことから、新たな花粉と柱頭の情報伝達機構の存在を示した。 一側性不和合性は、種間不和合性時に顕著な現象であり、1950年代から知られているが、現在までその分子機構は ほとんど分かっていない。これは植物種間では、遺伝的背景が違いすぎるため、詳細な遺伝学的解析が困難であることに起因する。 こういった意味では、本研究によって見いだされた一側性不和合性が種内で起こり、花粉側、柱頭側両因子が 1遺伝子座により制御される事実は、非常に興味深いものであった。