氏 名 藤科 智海 本籍(国籍) 東京都
学位の種類 博士 (農学) 学位記番号 連研 第307号
学位授与年月日 平成17年3月23日 学位授与の要件 学位規則第4条第1項該当 課程博士
研究科及び専攻 連合農学研究科 生物生産科学専攻
学位論文題目 農村地域における維持可能な循環型社会形成に関する研究
-山形県立川町地域資源循環システムを事例として-
(A Study on Establishing Sustainable Recycling-based Society in Rural Area
-A Case on Organic Waste Recycling System of Tachikawa Town, Yamagata-)
論文の内容の要旨

 現代社会において、「大量生産・大量流通・大量消費・大量廃棄」という資源浪費型社会から脱却し、 維持可能な循環型社会を形成することが重要な課題となっている。現代社会が資源浪費型社会となっている一例として、 フードシステムにおける「食」と「農」の距離拡大という構造変化の中での食品ロス増大が挙げられる。 食品廃棄物の循環利用には農業の循環的機能が期待されており、農業は維持可能な循環型社会形成に際し中心的な 役割を担うべき立場にあるが、現段階では、食品廃棄物の83.6%が焼却・埋立処理され、飼料・肥料等として農業に 循環利用される量は16.4%にすぎない。特に、一般家庭の生ごみの再生利用量は1.1%でしかない。 生ごみ堆肥化の先進地である山形県長井市や宮崎県綾町などの事例研究も行われているが、システムの形成や その維持に必要な条件などは明らかにされていない。そこで、一般家庭の生ごみを再生利用するシステムの形成・維持に 必要な条件を明らかにすることを本研究の課題とした。山形県立川町では、1988年から町内の一般家庭から排出される 生ごみの全量を堆肥化して、町内の農地を還元する地域資源循環システムを実現している。この取り組みを 維持可能な循環型社会を目指したシステムとして捉え、「維持可能な発展(Sustainable Development)」の概念の 満たすべき3基準、環境への配慮、経済的効率、社会的衡平という視点から分析し、システムの形成・維持に必要な 条件を明らかにした。

 具体的な分析課題として、以下の5点を挙げた。

 第一に、システムを構成する各主体がそれぞれの経済的効率を重視して行動すると、システムの形成や維持が 困難になると思われるが、立川町ではどのようにしてシステムを形成することができたのか(第1章)。

 第二に、全国的にみて有機性廃棄物の堆肥化施設は赤字経営になっている場合が多いが、廃棄物単位当たり コストの高さにどのように対応したのか(第2章)。

 第三に、生ごみ堆肥は、耕種農家の需要が不足することが多いと思われるが、耕種農家は、地域において どのような役割を担っているのか(第3章)。

 第四に、一般家庭において日常の分別という負担が伴う点をどのように解決することができたのか(第4章)。

 第五に、システムに維持可能性があるのかどうかである(第5章)。

 これらの点に関する分析結果は次のとおりである。

 第一の点は、地域内資源循環を基本としているので、地域内の堆肥生産量と堆肥利用量を一致させる必要があり、 堆肥利用の促進が堆肥利用農家の支援につながっていた。

 第二の点は、生ごみを原料とした堆肥化施設は堆肥生産費用が高くなるため、環境への配慮のあるシステムを形成 するためには、ある程度の費用負担が必要となることが明らかになった。

 第三の点は、立川町においては、堆肥利用農家である立川町有機米研究会が地域資源循環システムの形成に 大きな役割を果たしていた。立川町有機米研究会の経済的効率を考え、段階を踏んだ漸進的な取り組みが、有機農業運動の 理念である環境への配慮や社会的衡平を実現していた。

 第四の点は、生ごみを分別した結果が、地域資源循環システムの一部として有効利用されているという認知が、 一般家庭の負担感を低下させる可能性があることを明らかにした。

 第五の点は、維持可能性を環境への配慮、経済的効率、社会的衡平の3基準から評価した。地域資源が滞ることなく 循環しているという点で環境への配慮のあるシステムであった。また、町の年間2,137万円の費用負担によって、 一般家庭の生ごみ処理費用代替分620万円、稲作農家の収入増3,462万円、畜産農家における敷料提供と 畜産糞尿処理によるコスト低減、町のリサイクル率向上という多面的な効果をもたらしており、経済的効率の 高いシステムでもあった。立川町地域資源循環システムにおいては、堆肥生産費用の約8割を町が負担しているが、 町民に行なったアンケート調査によると、地域資源循環システムを維持するためには、地域農業を推進する必要があることが 一般家庭において認識されていた。

 以上を踏まえ、最後に、維持可能な循環型社会形成に必要な条件を提示した。

 第1に、生ごみを原料とする堆肥化施設は、経済的効率が悪いため、財政支援を行なう必要がある。

 第2に、堆肥散布には慣行農法に比べて費用や労力を要するので、堆肥散布機や堆肥運搬用ダンプの貸し出しや、 堆肥購入に際しての助成など、堆肥利用農家に対する行政の支援措置が必要となる。

 第3に、堆肥利用農家側で、堆肥散布や農産物取引を共同で行なう組織を形成する場合には、様々な農家を 巻き込めるように、漸進的な段階を踏んだ取り組みにする必要がある。

 第4に、一般家庭の日常の分別作業における負担を軽くするような収集方法を選択する必要がある。 また、負担感を和らげるためには、生ごみ分別がどのような効果をもたらすのかを認知させる必要がある。

 第5に、システムに持続性を持たせるために、条例や構想を策定するなど、政策においてシステムを明確に 位置づけておく必要がある。

 第6に、これらの条件を満たすためには、市町村という範囲で完結するシステムにする必要がある。