氏 名 XUE Chang Yan
薛 常燕
本籍(国籍) 中国
学位の種類 博士 (農学) 学位記番号 連研 第305号
学位授与年月日 平成17年3月23日 学位授与の要件 学位規則第4条第1項該当 課程博士
研究科及び専攻 連合農学研究科 生物生産科学専攻
学位論文題目 現代農業経営における分業とインセンティブに関する研究
(A Study on Division of Labor and Incentives in Farm Management)
論文の内容の要旨

 本論文は、現代農業における経営組織の編成を対象として、①どのような仕事を誰が担当するかという分業、 ②分業した人々を効率的、効果的に動かすためのインセンティブを取り上げ、現代農業組織の編成の在り方を明らかに することを目的とした。従来、農業経営についての経営組織論は、農業経営は家族経営が中心であることもあって、 土地利用を軸とした組織論が展開され、労働力を軸とした組織論は見られなかった。なお、本研究では、 認定農業者が経営する耕種経営を対象とした

 まず序章では、研究の背景、先行研究に対する考察を行った上で本論の課題と構成を述べた。

 次いで第1章では、農業経営組織の形成において協働基盤を形成する分業と協働意欲を引き出すインセンティブを 取り上げ、経営者がいかにそれを編成し、構成員に組織目的を受容させるか、を分析し、経営目的の受容は、 分業とインセンティブによって規定されることを明らかにした。

 また第2章では、分業のあり方を対象として、分業の基準とその規定要因を分析し、次の4点を明らかにした。 第1は、多くの経営では農業専従者数・経営管理能力と関係なく、「機械作業と手作業」を基準として分業が行われていること、 第2は、農業専従者数が増加するにしたがって分業の基準は多様化・高度化し、5人以上になると管理職能の形成が 顕著になること、第3は、経営者の経営管理能力が高い経営では少人数でも分業の基準を多様化・高度化していること、 逆に経営管理能力が低い経営では分業が進んでいないこと(専従者5人未満経営)、したがって分業基準の多様化・ 高度化については専従者の数よりも経営管理能力がより大きく作用していること、第4は、農産物販売額が拡大するにつれ 分業を多様化・高度化させ、管理職能を確立すること、である。

 第3章では、農業経営におけるインセンティブの内容とそれを規定する要因を分析し、次の4点を明らかにした。 第1に、農業専従者数が多くなるにつれて、また経営管理能力が高くなるにつれて、インセンティブは「収益目標的」 インセンティブから「収益目標的+物質的」インセンティブへ、さらに、「収益目標的+物質的+評価的あるいは 人的・文化的および自己実現的」インセンティブに段階的に拡大し、高度化していく。 第2に、経営管理能力が高い経営では専従者が少なくても、収益目標的インセンティブ、物質的インセンティブ、 評価的インセンティブ、人的・文化的インセンティブおよび自己実現的インセンティブの5種類のインセンティブが 有効であると評価し、高度なインセンティブを行っている。 第3に、経営管理能力が低い経営では、専従者数が少ない場合は、評価的インセンティブ、評価的インセンティブ、 人的・文化的インセンティブ、自己実現的インセンティブといった高度なインセンティブを重視する傾向は見られない。 第4に、経営成長に従って、「収益目標的」インセンティブから「収益目標的+物質的」インセンティブ、さらには 「収益目標的+物質的+評価的あるいは人的・文化的および自己実現的」インセンティブへと高度化する。

 最後に第4章では総括して、農業を発展させるためには農業経営における組織設計のマネジメントにおいて、 経営管理能力を向上させた上で、雇用労働を考慮し、管理職能の確立を図り、適切な分業と評価的、人的・文化的、 および自己実現的な高度なインセンティブ・システムを確立することが重要であるとした。