氏 名 LIU, Ai Min
劉 愛民
本籍(国籍) 中国
学位の種類 博士 (農学) 学位記番号 連研 第301号
学位授与年月日 平成16年9月30日 学位授与の要件 学位規則第4条第1項該当 課程博士
研究科及び専攻 連合農学研究科 環境科学専攻
学位論文題目 こうや豆腐、トウモロコシ水溶性食物繊維とわさびがダイオキシン類の排泄と蓄積に与える影響に関する研究
(An investigation on the Fecal Excretion of dioxins and Accumulation Controlled in Rat by Koya-tofu, Polydextrose, and Wasabi)
論文の内容の要旨

 ダイオキシン類は有機塩素化合物の一種で、毒性が強く、分解されにくい性質を持つ。 脂溶性のダイオキシン類はコレステロール、胆汁酸と共に肝臓から腸管に分泌して、再び腸管で再吸収によって、肝臓に戻る。 これらがダイオキシン類の生物半減期が非常に長くなる原因の一つと考えられる。ダイオキシン類の毒性を防止するため、 腸内吸収抑制、体に取り込まれたダイオキシン類を糞中から排泄するのは重要なことである。日本の伝統食品のひとつである こうや豆腐(DFSP)には大豆タンパク及びリン脂質が豊富に含まれているので、血液中及び肝臓において コレステロールを降下させる作用があることから、食物繊維を上まわるダイオキシン類排泄作用が期待される。

 1.こうや豆腐及び水溶性食物繊維による1,2,3,4,7,8-HxCDD投与ラットへの影響
 セルロース摂食群に対して、こうや豆腐群の血清総コレステロールと血清LDLコレステロールは有意に降下した。 肝臓中のコレステロールもセルロース投与群に対して、降下した。そして、ラットに 1,2,3,4,7,8-HxCDDを経口投与して、 こうや豆腐(DFSP)、トウモロコシ水溶性食物繊維(PP)を添加して、肝臓の蓄積抑制、糞への排泄増加、肝臓肥大を調査した。 四週間投与の結果は、こうや豆腐とPP投与群がCP投与群と比較して、1.99倍、1.50倍の有意な排泄促進効果が見られた。 肝臓中の蓄積量はCP投与群42.0±18.0pg/g、PP食の4週間投与群31.0±1.7pg/g、PP食8週間投与群40.5±8.5pg/gで、 DFSP投与群23.5±15.5pg/gであった。CP食群と比較すると、こうや豆腐食群では30.8%、水溶性食物繊維では 17.8%と 26.5%肝臓蓄積量が低下した。これらのこうや豆腐と水溶性食物繊維はラットにおける1,2,3,4,7,8-HxCDDの 糞への排泄を促進することが明らかになった。

 2.酵素処理こうや豆腐のダイオキシン類排泄効果の解明
 大豆タンパク質のペプシン分解産物中には疎水性残基が多く、大豆由来ペプチドの胆汁酸結合能によって、 血漿コレステロール濃度を低下させる作用が発揮される。そして、消化管内で生じる難消化性ペプチドが胆汁酸と結合するため、 コレステロールの溶解性が防げられて体外に排泄される。更に、ダイオキシン類に被爆された人の人体蓄積量を減らすために、 胆汁による排泄されたダイオキシン類の腸管再吸収を防ぐ方法の開発は重要であると指摘されている。

 こうや豆腐はダイオキシン類の糞中への排泄を促進させることが動物実験で明らかにされた。 そして、タンパク分解酵素 Protein AC と Protein FC で分解酵素処理こうや豆腐(HFM)はこうや豆腐よりも高い ダイオキシン類排泄効果と肝臓蓄積抑制効果が見られた。特に、肝臓蓄積抑制効果が顕著であった。 このことは大豆ペプチドが肝臓中のダイオキシン類排出を促進させるのに大きく影響していると考えられる。 この非消化性画分は、もとの凍結変性大豆タンパク質と比べ、コレステロール、胆汁酸及びダイオキシン類の腸管での 吸収を顕著に阻害して、糞便中への排泄促進作用を強くしている。この研究により、HMF,DFSPとSPが2,3,7,8-TeCDDを 排泄する効果及び蓄積を抑制する効果を証明して、高分子量成分がより多いHMFは吸収の抑制率の一番高い、 レシチン(SP)がDFSPより低くて、NFSPがあまりなかった。こうや豆腐の酵素処理変性物は環境汚染物質から 身を守るための新しい機能性食品として開発できる可能性を有している。高分子量の大豆変性蛋白質はダイオキシン類を 排泄する促進効果の有利な食品だと考えられる。そして、脂質とリン質は重要な役割が持っていると考えられる。

 3.ラットにおける2,3,4,7-TeCDDの排泄と蓄積に対するわさびの効果
 食事経由のダイオキシン類暴露量に占める各食品群の割合は、各年代とも魚介類からのダイオキシン類暴露が 食事全体の約50~70%と最も高い割合を占めている。和食香辛料のひとつであるわさびは、日本原産の植物で、 古くは薬草として利用されていた。現在では、そば、刺身、すしの薬味として愛用され、日本料理には欠かせない食材である。 わさび辛味成分は食欲増進作用、ビタミンBの合成増強、ビタミンCの安定化、抗菌性を持って、 胃がん細胞増殖抑制作用も報告されている。そこで、本実験においては、わさび粉末を食餌させたラットを用いて、 2,3,7,8-TeCDDを経口投与して、肝臓、精巣、血液の蓄積を研究すると共に、わさび粉末による2,3,7,8-TeCDD排泄促進効果を検討した。

 ダイオキシン類はコレステロール、胆汁酸、脂質と共に肝臓から腸管に分泌して、食餌に含まれている食物繊維が 油性物質と結合して、腸管での再吸収を抑えることによって、ダイオキシン類の排泄を促進することが良く知られている。 わさび粉末中には炭水化物の含量が75.7%を含まれている。これらの食物繊維のダイオキシン類吸着作用によって、 ダイオキシン排泄を促進していると考えられる。対照の基本食群と比べて、わさび粉末は糞への排泄促進効果と肝臓吸収の 抑制を示した。わさび粉末と6MSITC食餌は精巣蓄積抑制効果と血液中の2,3,7,8-TeCDDを低下させる効果を示した。 BD群と比べて、ラット血清中のコレステロールは有意に低下する傾向と各投与群の胆汁酸排泄量が増加する傾向が見られた。 糞中の脂質排泄量もダイオキシン類の排泄促進効果と同じ傾向が見られた。食餌中の6MSITC含量が低かったため、 6MSITC はダイオキシン投与に対して、肝臓GST活性増強によってダイオキシン類を排泄促進することが観察されなかったことも 考えられる。しかし、わさび粉末でダイオキシン類排泄促進効果が高いことから、ダイオキシン類の排泄を促進させる成分は 6MSITC以外のわさび中に含まれる食物繊維などの他の成分が関与していることも推測される。

以上の結果から、こうや豆腐は栄養成分の供給源だけではなく、ダイオキシン類などの生体異性物を捕らえて、 体外への排泄を促進する因子として、こうや豆腐に含まれている凍結変性タンパク質分解ペプチドとリン脂質が 関与していることが分かった。こうや豆腐は食物繊維、緑黄色野菜と同様に、またはその以上にダイオキシン類の 滞留期間の減少、蓄積量の降下を促進し、ダイオキシン類暴露のリスクを低減する効果が期待できる伝統食品であると考えられる。 また、わさびはダイオキシン類の排泄促進のよる、ダイオキシン類の半減期の短縮に効果が期待できると考えられる。