氏 名 間 和彦 本籍(国籍) 千葉県
学位の種類 博士 (農学) 学位記番号 連研 第300号
学位授与年月日 平成16年9月30日 学位授与の要件 学位規則第4条第1項該当 課程博士
研究科及び専攻 連合農学研究科 生物資源科学専攻
学位論文題目 セレブロシドの食品機能性に関する研究
(Studies on Food Functionality of Cerebrosides)
論文の内容の要旨

 植物の主要なスフィンゴ脂質であるセレブロシドには興味深い生物活性が見出されており、 保湿性向上や美白効果を期待した機能性素材として利用されている。本研究では植物および真菌類由来セレブロシドについて、 構成分の組成や物性(相転移温度およびリポソーム膜流動性に及ぼす影響)を検討するとともに、in vitro の大腸ガン細胞でのアポトーシス誘導活性ならびにin vivo の化学発ガンマウスの大腸腺腫誘発抑制効果について調べた。

 1.機能性素材としての植物セレブロシドの成分特性
 低コスト・大量分離が期待される各種植物由来のセレブロシド構成分を分析するとともに物性を比較検討した。 セレブロシドの物理的性質は、DSC分析と蛍光偏光解消法により評価した。コムギやライムギ由来セレブロシドの 主なスフィンゴイド塩基は8-シス-スフィンゲニン、コメやトウモロコシ由来では4-トランス、8-シス-スフィンガジエニン、 ダイズ由来では4-トランス、8-トランス-スフィンガジエニンであった。脂肪酸組成に関しては、 コムギやライムギではともにC16,20のヒドロキシ脂肪酸が多く、コメ、トウモロコシではC20,24が多く、 ダイズではC16が大部分を占めていた。コメ、トウモロコシおよびダイズより分離したセレブロシドと 牛脳由来ガラクトセレブロシドであるフレノシンの熱特性についてDSCを行った。フレノシンの場合、 60℃付近に鋭いピークが見られたが、植物セレブロシドでは様々な分子種が含まれることから、いずれもより低い 温度で幅広いピークが見られた。アゾレクチンからなるリポソームの膜流動性は植物セレブロシドの添加によっても 低下したが、膜流動性低下を抑える要因は脂肪酸部分とスフィンゴイド塩基のシス二重結合および短い脂肪酸鎖長で あることが示唆された。

 2.植物および真菌由来セレブロシドによるヒト結腸ガン細胞でのアポトーシス誘導とその機構
 植物および真菌セレブロシドからスフィンゴイド塩基およびセラミド類を調製し、アポトーシス誘導活性との 関連についてヒト結腸ガン細胞株Caco-2 を用いて検討した。トウモロコシ由来のジヒドロキシ型およびトリヒドロキシ型 スフィンゴイド塩基をCaco-2細胞に10μM添加すると、既報のファイトスフィンゴシンやスフィンゴシンと同様に、 アポトーシス誘導活性が見られた。植物および真菌由来スフィンゴイド塩基単一分子種の活性を20μMの濃度で比較した結果、 4-トランス、8-シスースフィンガジエニンおよび9-メチルー4-トランス、8-トランス-スフィンガジエニンは わずかではあるが、4-スフィンゲニン(スフィンゴシン)より高いアポトーシス誘導活性を示した。 また、カスパーゼインヒビターの添加により、トウモロコシスフィンゴイド塩基やC2-セラミドによるアポトーシス誘導は、 コントロールと比較して50%に抑制された。細胞内β-カテニン含量は、植物由来スフィンゴイド塩基の添加により 濃度依存的に減少した。そして、分化させたCaco-2細胞ではスフィンゴイド塩基はアポトーシスを誘導せず、 植物および真菌由来スフィンゴイド塩基はガン細胞特異的にアポトーシスを誘導すると考えられた。

 3.植物および真菌由来セレブロシドによる大腸腺腫誘発抑制効果
 植物と真菌由来セレブロシドの大腸ガン発症予防効果を、DMH(1,2-Dimethylhydrazine)投与マウスの大腸腺腫(ACF) 誘発系を用いて検証した。ACFは、DMHをBALB/c雄マウスの腹腔内へ投与することにより誘導した。 試験食は、トウモロコシおよび酵母から分離精製したセレブロシドをAIN-76配合飼料に0.1-0.5%の割合で添加して作製した。 誘発されたACF数を顕微鏡下で計測した結果、10週間試験飼育後、ACFの発生は、無投与の場合と比較して、 酵母セレブロシド0.1%投与で54%、トウモロコシセレブロシド0.1%投与で59%、トウモロコシセレブロシド0.5%投与で48%に 減少した。このように、供試したセレブロシドのACF誘発抑制効果が認められた。また、糞中のアルカリ安定脂質を 分析した結果、セレブロシドの分解が確認された。これまでの知見から、植物および真菌由来セレブロシドを経口摂取すると、 小腸内で一部はセラミドやスフィンゴイド塩基に分解されるが、分解されたスフィンゴイド塩基はあまり吸収されず、 セラミドやスフィンゴイド塩基は大腸に到達すると考えられる。一方、大腸では残ったセレブロシドやセラミドも 腸内菌叢による分解を受け、分解物であるスフィンゴイド塩基が大腸ガンの発症を抑制すると考えられる。

 以上のように、植物および酵母セレブロシド由来スフィンゴイド塩基によるヒト結腸ガン細胞株における アポトーシス誘導効果ならびに両セレブロシドによるDMH投与マウスにおけるACF抑制効果が明らかとなったことから、 日常、これらのセレブロシドを摂取することにより、大腸ガン発症予防効果が期待されると結論付けられた。