氏 名 YIN Xin
尹  新
本籍(国籍) 中国
学位の種類 博士 (工学) 学位記番号 工博 第103号
学位授与年月日 平成17年3月23日 学位授与の要件 学位規則第4条第1項該当 課程博士
研究科及び専攻 工学研究科 生産開発工学専攻
学位論文題目 木材の経年変化のビジュアルシミュレーション法に関する研究
論文の内容の要旨

 近年、コンピュータグラフィックス(CG)による種々の経年変化の表現法の開発が重要な 研究テーマとなってきている。実際の物体は多かれ少なかれ経年変化を受けており、よりフォトリアリスティックな CG画像を生成するためには、種々の素材の経年変化現象の表現法の開発が不可欠である。

 本論文では、木材の経年変化現象のビジュアルシミュレーション法を提案する。木材は生活素材として よく使われており、映像表現においてもその経年変化の視覚効果の実現は重要である。木材は生物素材であるため、 変色、変形、侵食、ひび割れ、虫食いなど経年変化現象が起こりやすい。木材は、木の伐倒直後から色の変化が始まる。 また、水分を失うとともに、木材が変形し、ひび割れが発生する。さらに、風化などの自然要因により、表面の 軟らかい早材部が崩壊し、硬い晩材部が浮かび出てくる。また同時に、表面の微生物の成長やシロアリなど虫食い現象が発生する。 本論文では、このような木材の経年変化のビジュアルシミュレーションを実現するための以下のような手法を提案する。

 (1)木材の構造を表すためのソリッドテクスチャのモデリング法
 (2)木材の色変化の表現法
 (3)四面体メッシュによる木材のひび割れの生成、および巻きや表面の侵食などの形状変化のシミュレーション法
 (4)虫食いや微生物の成長など、生物を要因とする木材の経年変化のシミュレーション法

 (1)では、木材の幹と枝のそれぞれを、ノイズを加えた濃度円柱体で表すことにより、幹と枝の相互の影響を含めた 木材のソリッドテクスチャが生成できる。(2)は、主に屋外での木材の色の変化を表現対象としている。 この手法では、実際の計測データに基づいて、L*a*b*表色系により、パラメタを対数的に変化させることにより 色の変化を実現している。(3)は、ひび割れや巻きの発生などの変形を扱うために、まず任意形状の木材を 四面体メッシュで表現し、木材内部の伸縮率に対応する移動趨勢と応力に対応する割れ趨勢の2つのパラメタを メッシュポイントに定義している。次に、この2つのパラメタが与えられたメッシュ上での擬似的な力学シミュレーションを行い、 木材の変形とひび割れの発生を表現している。物体表面の侵食は、物体表面を四面体の頂点から補間して定まる等 濃度面で表し、この等濃度面の変化により、侵食をシミュレーションする。(4)では、線虫の行動モデルや 人工生命の分野の蟻の群知能などの理論を応用することにより、シミュレーションのモデルを実現している。

 本文では、以上の手法を詳しく説明するとともに、種々の実験例によりその有効性を示す。最後に、本論文を まとめるとともに、今後に残された課題についてまとめる。