氏 名 末永 陽介 本籍(国籍) 北海道
学位の種類 博士 (工学) 学位記番号 工博 第102号
学位授与年月日 平成17年3月23日 学位授与の要件 学位規則第5条第1項該当 課程博士
研究科及び専攻 工学研究科 生産開発工学専攻
学位論文題目 濃度分布を有する混合気流における着火および火炎の特性に関する研究
論文の内容の要旨

 現在、自動車用火花点火機関において成層希薄燃焼が多く用いられている。 この燃焼方式は、着火部分近傍にのみ量論に近い混合気を、その他の領域には非常に希薄な混合気または空気を 分布させて燃焼させるものであり、従来の均質希薄燃焼方式に比べて、燃費や排気特性に優れている。 機関内での燃焼が、着火、火炎伝播、消炎といった一連の過程で進行するが、本研究では、着火と火炎伝播に着目し、 これに対する混合気の成層化の影響を調査するため、濃度分布を有する混合気流中での着火と火炎伝播について実験を行った。

 本論文は以下の5章よりなる。

 第1章は、「緒論」と題し、本論文の背景とその位置づけ、研究目的について述べている。

 第2章は、「濃度分布を有する混合気流の着火特性」と題し、濃度が一様ではなく分布を有する混合気流を用い、 分布の状況が最小着火エネルギーEmin に及ぼす影響について実験的に調査している。 実験は、着火前において着火位置まわりの反応物質の拡散方向が異なる二種類の濃度分布(二次元分布と軸対称分布)について 行われた。その結果、二次元濃度分布を有する混合気流の、着火位置における当量比に対するEmin 曲線は、当量比勾配Gφ の増加につれて希薄側へ移動する。一方、軸対称当量比分布を有する混合気流の、 当量比に対するEmin の曲線は、凸形状の当量比分布の場合には、Gφ の増加につれて、 均質混合気の曲線よりも過濃側へ移動し、凹形状の当量比分布の場合には、曲線は希薄側へ移動する。そして、 二次元的当量比分布、軸対称当量比分布ともに、Gφ の増加につれて、Emin の 最小値は増加するという知見が得られた。

 第3章では、「軸対称濃度分布を有する混合気流中の火炎伝播」と題し、火炎の伝播方向に対して垂直方向に 大きな濃度勾配を有する混合気流中を伝播する火炎の特性について研究を行っている。実験は凸または凹の軸対称 濃度分布を形成させることのできる二重円管バーナを用い、未燃側に凸の穴開きV型火炎、穴無しV型火炎、 およびバーナ中心軸上の火炎が下流側へ凹んだW型火炎の3種類を研究対象とした。穴開き火炎も含め、これら3つの 火炎先端部に対して共通した火炎先端半径 を定義し、これと火炎の移動速度 uf と混合気流速とを 用いて評価した見かけの燃焼速度Su の関係を調査している。結果として、当量比分布を与えることによって、 より広い当量比範囲で火炎が上流側へ移動できること、RSu には相関があるこち、そして、 ある範囲の凹形状当量比分布において、uf が一次元断熱予混合火炎の燃焼速度の最大値よりも大きくなることが 明らかになった。

 第4章では、「周期的濃度変動を伴う混合気流中の火炎の特性」と題し、混合気の濃度が火炎の伝播方向に対して 周期的に変動する場合の火炎の特性について実験的に調査している。平均当量比と当量比振幅を一定として、 当量比変動周波数を増加させたときの、燃焼速度、燃焼ガス温度、およびCO濃度の変動幅は、当量比の変化域における 定在火炎(静的火炎)のそれらの変化域よりも大きくなること、そして、動的火炎の燃焼速度の最大値は全当量比範囲に おける静的火炎のそれを超えることは無いという興味深い知見が得られた。また、燃焼ガス中の窒素酸化物(NO) 濃度について、一般に平均当量比が希薄な場合、混合が不完全な状態で燃焼させると NO 濃度は 平均当量比に対応する静的火炎のそれを超えるとされているが、変動周波数によっては燃焼ガス温度を維持しつつ、 NO濃度を低減させることができることを示唆した。

第5章は、「結論」と題し、第2章から4章で示された、濃度分布を有する混合気流の着火と火炎伝播について、 得られた知見を総括し、本論文の工学的寄与について述べている。