氏 名 石川 周外 本籍(国籍) 神奈川県
学位の種類 博士 (工学) 学位記番号 工博 第101号
学位授与年月日 平成17年3月23日 学位授与の要件 学位規則第5条第1項該当 課程博士
研究科及び専攻 工学研究科 生産開発工学専攻
学位論文題目 超硬合金の摩耗機構とプレス金型材への適用性
論文の内容の要旨

 金型は製品を大量に生産するためのツールとして、製造業における基幹技術である。 そのため、金型技術の発展が日本の製造業の鍵を握っていると言える。従って、加工精度向上、難加工材の加工、 納期短縮、あるいはカスタマイゼーションなど、より付加価値の高い金型を製造していくための技術開発が必要である。 本研究では、金型材料として利用される超硬合金に注目した。超硬合金は耐摩耗性に優れるが、その摩耗が金型の寿命を決める。 より高性能な超硬合金の開発、あるいは最適な利用のためには、超硬合金の摩耗メカニズムの解明が必須であると言える。 そこで、本研究は、各種超硬合金と被加工材との摩擦摩耗実験を行い、超硬合金の摩耗機構を明らかにすることと、 プレス金型材への適用性の検証を目的としている。

 本論文は7章から構成されており、第1章は「序論」である。第2章「超硬合金の摩耗特性と摩耗面の微視的観察」では、 炭素銅(S45C)に対する超硬合金の摩耗進行中の摩擦摩耗特性を測定した。また、摩耗痕の1点に注目しSEM観察を行った。 その結果、超硬合金の摩耗が、すべり距離に対して二段階で変化することがわかった。そこで、摩擦係数は高いが 摩耗の少ない前半を初期領域、摩耗の激しい後半を定常領域と定義した。初期領域では、WC粒子の脱落が支配的で あることを視覚的に明らかにした。

 第3章「超硬合金の摩耗メカニズム」では、摩耗痕のSEM観察を詳細に行った結果と、第2章の結果を元に、 超硬合金の摩耗メカニズムの新しいモデルの提案を行った。すなわち、初期領域では、表面に露出した比較的小さな粒子が 脱落するのと同時に大きな粒子が摩滅することによって摩耗が進行する。定常領域では、初期領域で粒子が欠落し 出来たく穴に相手材が移着し、成長した移着物がはく離する際に、周辺の粒子が脱落する。また、隣り合った粒子が 失われることにより、保持力が弱まり、大きな粒子も脱落する、というモデルである。

 第4章「超硬合金の摩耗における放電加工の影響」では、金型加工の際に使用される放電加工によって生じる、 加工変質層の摩耗特性を明らかにした。従来は除去される変質層に、母材と比べ最大3倍程度の耐摩耗性が見られ、 変質層を有効に利用できる可能性を示した。

 第5章「プレス金型材としての各種超硬合金の摩耗評価」では、粒子の粒径やCo含有量を変化させた超硬合金6種と、 被加工材6種(S45C, SUS304, C5191B, AZ31, A5052B, Ti)の計36の組合せで行った。その結果、超硬合金の比摩耗量は、 摩耗の激しいSUS304とTiを除き、被加工材と超硬合金の硬さの比(相対硬さ)と良い相関を持ち、相対硬さ 0.1以下では、超硬合金の摩耗は無視できることがわかった。

 第6章「プレス加工における超硬合金の摩耗特性および摩耗試験との比較」では、摩耗実験による結果と、 実際のプレス加工におけるパンチの摩耗を比較し、実機に対する摩耗試験結果の適用性を検証した。 その結果、実験と実機には整合性が見られたことから、実機での摩耗を、摩耗実験により検証可能であることが示された。

 第7章は結論であり、各章の結果を総括し、その工学的意義を、工業的にみたときの金型材料としての評価と、 トライボロジーにおける学問的な評価に分けて整理している。