氏 名 晴山 巧 本籍(国籍) 岩手県
学位の種類 博士 (工学) 学位記番号 工博 第95号
学位授与年月日 平成17年3月23日 学位授与の要件 学位規則第5条第1項該当 課程博士
研究科及び専攻 工学研究科 物質工学専攻
学位論文題目 希土類元素を含む鋳放し高強度球状黒鉛鋳鉄の開発に関する研究
論文の内容の要旨

 球状黒鉛鋳鉄は球状黒鉛が晶出または析出している鋳鉄と定義され、片状黒鉛鋳鉄と比較し、 黒鉛形状による応力集中が小さいため高強度である。球状黒鉛鋳鉄品のJIS規格(JIS G 5502)では引張強さで 350MPaから800MPaまで規定されている。しかし、鋳放しにおける引張強さが900MPa以上の球状黒鉛鋳鉄の製造方法に ついては未だに確立していない。

 本研究では、無チル化に対し極めて効果の大きい希土類元素(RE)、さらに合金元素としてマンガン(Mn)及び 銅(Cu)を添加し、鋳放しでも900MPa以上の引張強さを有する高強度球状黒鉛鋳鉄の開発を行った。

 元湯硫黄(S)量0.05mass%の溶湯に対し、化学量論的な0.2%REを添加した球状黒鉛鋳鉄の組織及び機械的性質に 及ぼすMn,Cuそれぞれ単独添加の影響について調査した結果、REの持つ著しい黒鉛化作用により通常では考えられない ほど多量のMnやCuの添加が可能となった。1.5mass%Mn添加した試料でFCD700-2, 2.0mass%Mn及び1.0%Cu添加した 試料ではFCD800-2に相当する機械的性質が得られ、さらにCuを1.5mass%以上添加した試料では900MPa以上の 引張強さが得られた。肉厚3mmの組織観察では、Mn添加量1.5mass%まで、Cu添加量2.0mass%までの試料で無チル化が 達成できることが分かった。また、MnやCuを多量に添加した試料では、黒鉛晶出の下地となる物質は複合硫化物 (RE,Mg)SであることがEPMA観察及びSEM観察により明らかとなった。

 元湯0.02mass%S及び0.05mass%Sの溶湯に対し、それぞれ化学量論的な量のREを添加した球状黒鉛鋳鉄の組織及び 機械的性質に及ぼす冷却速度の影響について調査した結果、Φ10mm試験片において、1.5〜2.0mass%Cuの範囲で 1000MPaを越える引張強さが得られ、伸びについても7%程度を有し、高強度かつ高延性球状黒鉛鋳鉄の製造が 鋳放しで可能であることが判明した。また、厚肉部より薄肉部の方がよりREの黒鉛化作用を得やすいことが 黒鉛粒数の測定結果より分かった。

 MnとCuを複合で添加した球状黒鉛鋳鉄において機械的性質と組織を調査した。2元配置法を適用したところ、 Mnと比較しCuによる有意差が認められた。そこで1.0mass%Mn固定とし、Cu添加量の影響を調査した結果、 2.5mass%Cu添加でYブロック試験片の引張強さが900MPa、Φ10mm試験片で1200MPaを越える極めて高強度の球状黒鉛鋳鉄が 得られることがわかった。

 1.0mass%Mn, 2.5mass%Cu において最も高強度な球状黒鉛鋳鉄が得られることが分かったが、その機構については 黒鉛粒数の増加またはパーライト層間隔のち密化等が考えられる。そこで、黒鉛粒数及びパーライト層間隔の異なる 球状黒鉛鋳鉄を溶製し考察を行った。その結果、強度に及ぼす元素の偏析や黒鉛粒数の影響は極めて小さく、基地組織を 構成するパーライト層間隔の影響が非常に大きいことがFE-SEM観察及びAFM観察より分かった。さらに鋳型のばらし温度を 調製した試料において化合炭素分析を試みたところ、より高強度となる試料では化合炭素量が多くなることが判明し、 高強度となる機構を考察した。

 近年、問題となっている高Mnスクラップ鋼をリサイクルする目的で、本研究で開発した材料に鉄源として用いる実験を行った。 その結果、十分にリサイクルが可能であることを確認した。

 高強度球状黒鉛鋳鉄を鋳放しで製造する場合は、凝固時にチルが晶出しないよう十分に配慮しながら黒鉛の 晶出を抑え、凝固終了から共析変態開始までの時間を可能な限り短くすることによって、オーステナイト中に 固溶している炭素の球状黒鉛への拡散を阻害することが重要であると考えられる。