氏 名 小池 勝美 本籍(国籍) 栃木県
学位の種類 博士 (工学) 学位記番号 工博 第93号
学位授与年月日 平成17年3月23日 学位授与の要件 学位規則第4条第1項該当 課程博士
研究科及び専攻 工学研究科 物質工学専攻
学位論文題目 スチール缶スクラップの鋳鉄原料としてのリサイクルに関する研究
論文の内容の要旨

 今日の鉄スクラップには、表面処理鋼板の増加や異種金属との複合化等により鉄以外の様々な 元素が混入しているので、国内の消費スクラップの約7割を使用している電炉メーカにより良質な鉄スクラップは 占有されつつある。そのために、鉄筋や形鋼等の建築用資材を大量に生産している電炉メーカに比べて、 資金力では劣る中小鋳物工場は、良質な鉄スクラップの確保がますます困難になるものと予想される。 さらに、中国や韓国及び台湾等では鉄スクラップの需要量が増加してきており、日本からかなりの量の鉄スクラップが 輸出されていることも上記の状況を更に悪化させる原因となっている。そこで、本論文では老廃スクラップの中でも 比較的良質な鉄スクラップであり、鋳物工場ではほとんど使用されていないスチール缶スクラップ(缶スクラップ)に着目した。 そして、溶解原材料の一部を缶スクラップで置き換えて(缶配合率)、片状黒鉛鋳鉄(FC)と球状黒鉛鋳鉄(FCD)を溶製し、 溶湯中に残留する不純物元素、鋳造した試験片の金属組織や機械的性質等の変化を調査し、缶スクラップが 鋳鉄用原材料として使用可能な缶配合率の範囲を推定することを本研究の主目的としている。なお、実験に使用した 缶スクラップは、使用済みスチール缶を集めて一定形状にプレス成型したスチール缶プレス処理スクラップ(缶プレス材)と シュレッダ処理後に磁選してスチール缶キャップ部のAl-Mg系合金をある程度除去して一定形状にプレス成型した スチール缶シュレッダ処理スクラップ(缶シュレッダ材)の2種類である。

 この2種類の缶スクラップの缶配合率を変えて溶解し、鋳鉄溶湯中に残留する元素の種類と含有量及びその混入源を 明らかにした。特に鋳鉄溶湯中には Alが多量に残留し、初晶と共晶温度に変化が現れることがわかった。 この影響で、缶プレス材を使用した鋳鉄溶湯は、缶配合率6~8%のときに鋳型内で最も良く流れた。

 また、上述の2種類の缶スクラップを使用して、汎用的な部品に使用されているFCと引張強さと伸びが 必要な部品に使用されているFCDを鋳造し、金属組織や機械的性質の変化を明らかにした。特に、缶プレス材 配合率40%以上と缶シュレッダ材配合率80%以上からAl-Fe-C 三元化合物が生成することも明らかになった。

 さらに、缶配合率を増加させた試験片に発生するガス欠陥の原因を明らかにし、鋳鉄溶湯中からガス成分を 除去するための脱ガス処理装置を開発した。この装置により脱ガス処理を実施したところ、ガス欠陥防止に効果が あることが確かめられた。また、缶スクラップ溶解から混入する窒素の金属組織に及ぼす影響を考察し、実際に 鋳鉄溶湯中に窒素ガスを吹き込むことによりこの関係を証明した。

 以上の実験結果から、缶プレス材は溶解用原材料の20%までがFC用として使用可能であり、同様に FCD用原材料としては10%までが利用可能な結果が得られた。また、缶シュレッダ材は溶解用原材料の 80%までがFC用として使用可能であり、同様にFCD用原材料としては40%までが利用可能であることがわかった。 これらの結果を基に、鋳物工場で実際に缶スクラップを使用したところ、欠陥の無い製品を鋳造することに成功した。