氏 名 早坂 剛 本籍(国籍) 山形県
学位の種類 博士 (農学) 学位記番号 連論 第88号
学位授与年月日 平成16年3月23日 学位授与の要件 学位規則第4条第2項該当 論文博士
学位論文題目 水稲病害の環境保全型防除技術に関する研究
(Studies on environmentally founded rice plant disease management)
論文の内容の要旨

 本研究では、水稲病害防除用農薬として使用量の多い上位3位のいもち病剤、紋枯病剤、 種子消毒剤の使用量低減を図ることを目的とし、各病害の生態および発生要因の解析を行い、化学農薬代替防除技術 あるいは環境保全型防除技術の開発を行った。

1)山形県庄内地域30地点の発生予察定点圃場における31年間(1971年~2001年)のいもち病発生調査データを 用い、当該地域のいもち病発生の特徴を解析した。その結果、葉いもちの発生量と穂いもちの発生量は密接に連動し、 葉いもちの発生時期が遅い圃場では葉いもち発生量は少なく、葉いもちが発生していない圃場では、穂いもちの 発生は少ないことが疫学的調査から明らかとなった。

2)いもち病菌の種子感染から育苗中における発病までの動態について検討した。その結果、保菌種子の2割が 種子玄米部に感染しており、感染玄米では登熟後期まで枝梗から小穂軸を通過して本菌が侵入してくると推定された。 種子玄米に寄生するいもち病菌に対する種子消毒剤の殺菌効果は低く、特にステロール脱メチル化阻害剤(DMI)で その効果が劣ることが明らかとなった。また、種子消毒を行い籾表面に胞子形成が認められなくとも、玄米に寄生する いもち病菌の残存により、苗いもちの重要な発生源となることが明らかとなった。これら種子玄米に侵入している いもち病菌に対しては、真空浸漬法による種子消毒と温湯種子消毒が有効であった。

3)種子消毒剤を用いない環境保全型の種子消毒法を開発するため、水温を一定に維持できる試作装置を用い 温湯浸法の効果を検討した。その結果、58℃で20分間および60℃で15分間の温湯浸漬処理は、ばか苗病、 いもち病および苗立枯細菌病の3病害に対して化学薬剤による種子消毒ど同程度の発病抑制効果が認められ、 種子の発芽率も90%以上を確保できることが明らかとなった。

4)いもち病の第一次伝染源として重要な苗いもちの発生を抑制するために、新しいケイ酸資材としてシリカゲルを 育苗土に混和し効果を検討した。その結果、苗いもち発生は著しく抑制され、その後の育苗箱における二次感染も 顕著に抑制された。既存のケイ酸資材と比較検討した結果、苗のケイ酸含有率はシリカゲルが最も高く、 シリカゲル以外の資材では、イネの育苗に不適当な土壌pH範囲まで上昇した。シリカゲルの施用は育苗土のpHを 変化させずに育苗初期から苗のケイ酸含有率を高め、苗いもちの発生を抑制できる有効な方法であることが明らかになった。

5)紋枯病の被害解析を行い、防除要否判定基準を策定した。出穂期(8月10日頃)の発病株率(X)と 成熟期の発病度(Y)との間には、Y=0.971X+2.306 の関係が成り立ち、成熟期の発病度(Y)から減収率の推定が可能であり、 被害許容水準を減収率5%とすると、成熟期の発病度(Y)は「どまんなか」が23.6、「はえぬき」が20.2、 「ササニシキ」が16.5であった。ことから、山形県における紋枯病の防除要否判定基準は8月10日頃の発病株率で判断し、 「どまんなか」「はえぬき」は15%、倒伏しやすい「ササニシキ」は10%に設定した。

6)イネ紋枯病の簡易な発病調査法と効率的な防除法を確立するため、本病の圃場1筆内における発病様相と それによる減収率を調査した。その結果、紋枯病が多発している圃場では、畦畔際から10条付近までに本病が集中的に発生し、 圃場内部にいくほどその発病株率が急激に低下し、収量に対する影響も小さいことを明らかにした。 これは、紋枯病の多発圃場では畦畔際から10条程度を防除することで、効率的に次年度の伝染源を減らせることを示している。