氏 名 平岡 博幸 本籍(国籍) 埼玉県
学位の種類 博士 (農学) 学位記番号 連論 第85号
学位授与年月日 平成16年3月23日 学位授与の要件 学位規則第4条第2項該当 論文博士
学位論文題目 マレーシアMuda灌漑地域の水稲直播栽培法の確立に関する研究
(Studies on the Establishment of Direct-Seeded Rice Cultivation in the Muda Irrigation Scheme, Malaysia)
論文の内容の要旨

 マレーシアの北西に位置するMuda地域は水田面積が約96,000ha、1970年から水稲二期作栽培が 行われる同国最大の稲作地帯である。1970年代末期には都市への労働者の流出による農業労力不足および用水不足が深刻化した。 この対応策として、1980年代初期から代かき後に排水した潤土面に催芽籾を播種する潤土直播栽培、および第一作の 用水不足地域にはコンバインからの落粒を栽培する落粒栽培法および播種を行う乾田直播栽培法が広く普及した。 筆者は熱帯農業研究センター(現国際農林水産業研究センター)とMuda農業開発公団(MADA)による直播栽培の改善を 図るためのプロジェクトに1987~1991まで参加し、直播栽培水稲の収量安定、向上を図るため、同研究の進んでいる和田 (IRRI)と連携し、直播水稲の特徴の解明、直播水稲の収量構成要素間の関係を解析して収量低下要因を抽出し、 その原因となっている苗立ちの実態および向上法について検討した。

1.直播栽培水稲は移植水稲に比し、生育期間が短くなるが、それは栄養生長期間の差である。 その差は長日条件で大きく、短日条件で小さくなる。栽植密度が等しい場合および異なる場合における直播栽培水稲と 移植水稲の差を検討した結果、本田植付け時の水稲の age は生育期間に影響を及ぼすが、収量に及ぼす影響は少なく、 直播水稲と移植水稲との間の収量差は栽植密度の差に基づくことを明らかにした。

 栽植密度の高い散播水稲は分げつ増加速度が高く、最高分げつ期の茎数も多く最高分げつ期に達する期間が 著しく短縮される。しかし、幼穂形成期はそれほど促進されないので、VLPが長くなり、有効茎歩合が低下する。 有効茎歩合はVLPと負の相関を示す。散播直播条件下の生育期間の短い早生品種はVLPが短いために穂数確保が容易となり、 高いSink sizeが得られ高収量が得られるが、生育期間の長い中晩生品種ではVLPが長くなることが有効茎歩合の低下、 退化穎花の増加を招きSink sizeの増加に結びつき難く収量に結びつかない。以上から、早生品種は直播栽培適正に 優れていることが明らかとなった。

2.水稲散播直播栽培における同一圃場から多抽出された試料の解析結果、水稲の収量はSink sizeと密接な関係があり その一次式で示しうる。Sink sizeは穂数と、穂数は単位面積あたり個体数と密接な関係にあり、個体数が㎡あたり 100~150以下では穂数およびSink sizeが低下するが、個体数が㎡あたり200以上では個体数(栽植密度)の 増加に伴う穂数およびSink sizeの増加はみられない。収量は㎡あたり栽植密度と二次式で示され、栽植密度が㎡あたり 100以下では栽植密度の低下に伴い収量が低下するが、栽植密度が㎡あたり200以上では栽植密度の変化に伴う 収量の変化はほとんど認められない。従って、直播栽培で安定多収をうるためには、栽植密度が100以下の面積を 少なくすることが重要であることを明らかにした。

3.Muda地域における水稲潤土直播地区の水稲苗立ちは、苗立ち率100・m-2個体以下の圃場が 約20%、乾田直播地区では30~40%認められ、苗立ちに問題が認められた。トラクタ車輪排水溝(潤土)、 土壌の鎮圧(乾田)法は苗立向上に有効なことを明らかにした。

4.以上の結果を基にした散播直播栽培理論の構築とその実践により、マレーシアMuda地域における直播栽培の 改善法が実証された。