氏 名 長岡 泰良 本籍(国籍) 北海道
学位の種類 博士 (農学) 学位記番号 連論 第84号
学位授与年月日 平成16年3月23日 学位授与の要件 学位規則第4条第2項該当 論文博士
学位論文題目 アズキの種皮色に関する生態生理学的研究
(Eco-physiological study on seed coat color in azuki bean)
論文の内容の要旨

 アズキは、その利用が中国、韓国、日本などの東アジアに限られていて、わが国では2000年の 歴史をもつ伝統食品である。現在、わが国では年間10万トン前後の消費があり、主にアンや菓子に用いられている。 全国で栽培されているが、主産地は北海道で国産の80%以上を生産している。消費者はアズキについて食味や栄養価とともに 外観を重視するために、実需者や流通関係者は一定範囲の安定した種皮色を望んでいる。本研究は北海道の中でも 品質が良いことで実需者からの評価が高い十勝地方のアズキの種皮色について生態生理学的観点から一連の研究を行った。

 これまでの研究では種皮色を色差計や測色計で測定し、L*a*b*表色系で表している。L*a*b*表色系は色の違いを 表現するのには適しているが、実需者が求める視感を表現するのには必ずしも適していない。近年、分光測色計や 解析ソフトの開発によりXYZ表色計で種皮色を表示することが可能となった。XYZ表色系では、色の3属性である色相を 主波長(nm)で、明度をY値で、彩度を刺激純度(%)で表示するため、視感を数値で表すことが可能である。 本研究では、種皮色をXYG表色系で表示し、生産現場で生じている種皮色変動の実態と要因を明らかにした。

 北海道の基幹品種であるエリモショウズの未熟から成熟までの種子と完熟した種子には肉眼で著しい色の違いがみられた。 これらをXYZ表色系で表すと、主波長は 539.8(未成熟)~616.0nm(完熟・濃色)であった。完熟種子においては、 Y値は17.01(淡色)~ 8.92(濃色)、刺激純度は41.4(淡色)~19.8%(濃色)であった。現在流通している 赤アズキの種皮色は大部分がこれらの範囲にあり、3つのパラメータを組み合わせることにより肉眼で見た色を数値で 表すことができた。

 一般に「アズキの種皮色は登熟期の気温が高いと濃色に、低いと淡色になる」ことが経験的に知られている。 このことを室内の加温実験と圃場での調査から明らかにした。成熟初期にあたる白莢以降の気温と収穫時の種皮色には 高い相関関係があり、この関係を利用して登熟期の気温から収穫時の種皮色を予測する推定式を作成した。 すなわち、白莢を観察した日から10日間の平年値の平均気温を独立変数として、つぎの式に代入することにより、 収穫時の種皮色をXYZ表色系の3つのパラメータで求めることができる。主波長yD=0.7947x+591.3, Y値 yr=-0.3942x+15.47,刺激純度yC=-0.5507x+44.4.

 アズキはマメ類のなかでも低温に弱く冷害を受けやすい。冷害の年には子実収量の減収ばかりでなく品種とくに 種皮色が劣化する。十勝地方の22農家圃場で5年間(1989~2002年、高温年と低温年が各2年間、平年が1年)栽培した エリモショウズの種皮色について、その変動を明らかにした。主波長のレンジは600.0~611.2nm、平均値は604.4nm、 変異係数は0.37%と著しく小さかった。Y値のレンジは6.04~9.04、平均値は7.47、変異係数は14.5%と3つのパラメータ中 最大であった。刺激純度のレンジは27.4~37.5%、平均値は32.7%、変異係数は5.98%であった。3つのパラメータ間には 有意な高い相関関係があり、主波長はY値および刺激純度との間に負の関係が、Y値と刺激純度の間には正の関係があった。

 アズキの種子は赤色ばかりでなく、7種類の単色と4種類の2色種子がある。これらの遺伝様式については 古く1917年に報告されている。しかし、赤色アズキ種皮色の品種間差異については近年研究が始まったばかりである。 1905年以降の歴代赤色優良品種の種皮色についてXYZ表色系を用いて品種間差異を検討した。供試した16品種間には、 主波長、Y値および刺激純度のすべてのパラメータで有意な差があった。しかし、各パラメータの差と年代には一定の 傾向はなかった。品種間差異を変異係数で比べると、主波長が0.4%と最も小さく、ついで刺激純度が9.4%、Y値が 26.4%で最も大きかった。

 2種類の煮豆の色と原粒の色を比較した。主波長は原粒、煮豆、蜜浸漬煮豆の順に大きくなった。 反対に、Y値と刺激純度はこの順に小さくなった。すなわち、煮豆にすることにより色は紫色方向に赤色を増し、 濃色になることが、XYZ表色系のパラメータで示すことができた。