氏 名 遠藤 明 本籍(国籍) 東京都
学位の種類 博士 (農学) 学位記番号 連研 第292号
学位授与年月日 平成16年3月23日 学位授与の要件 学位規則第4条第1項該当 課程博士
研究科及び専攻 連合農学研究科 生物環境科学専攻
学位論文題目 液体輸送速度ベクトルと熱物性の同時計測法を用いた多重傾斜成層砂中の水分移動の解析
(Analysis of the water movement in the inclined multiply layered sand with a simultaneous measurement technique of fluid flow velocity vector and thermal properties)
論文の内容の要旨

 本研究の第一の目的は ?)多孔質体の熱物性と流体移動速度ベクトルを計測するための五極 子熱パルス(QPHP)センサーを開発し、 ?)流体移動速度ベクトルと熱物性の同時計測方法および計算手順を 明らかにすることにある。また、第二の目的としては、 ?)QPHPセンサーを用い、水分不飽和状態の多重傾斜成層砂における 間隙流速ベクトルと当該砂の熱物性を同時計測し、 ?)多重傾斜成層砂(MILS)における水移動の特徴および QPHP法を用いて計測した間隙流速ベクトルと熱物性の特徴を把握し、当該土層における流れの形態や、 土層内部において生じている水流と土壌水分の挙動を評価すること、および ?)不飽和水分状態におけるQPHP計測の 実用可能性を模型実験と数値解析により検証し、多重傾斜生成土の水分移動制御効果と層間の水分保持効果を 実証することにある。

 第二章において、土壌の体積含水率と熱物性を同時に計測するためのサーモTDRプローブを試作し、 ロッド内に埋設した熱電対の位置で計測するΔT(t)データおよび熱物性の計測値に及ぼす影響について、 室内実験および数値計算により詳細に検討した。その結果、熱物性を双子極熱パルス(DPHP)法を用いて厳密に 計測するためには、(?)ロッド方向に埋設する熱電対位置が中央に埋設されていること、および(?)ロッド長が 10cm以上必要であることを明らかにし、土壌熱物性の計測方法を改良した。この成果は土壌熱物性の計測分野だけではなく、 熱トレーサー法を用いた流体輸送速度ベクトルを計測する上でプローブの重要な設計因子となると考えられる。

 第三章において、(?)多孔質対の熱物性と流体移動速度ベクトルを計測するための五極熱パルス(QPHP)センサーを開発し、 (?)流体移動速度ベクトルと熱物性の同時計測方法および計算手順を明らかにした。室内実験では、水分飽和した 砂カラム中にQPHPセンサーを挿入し、水流場において、熱パルス発生期間と流向を調節しながら熱前線伝播度ベクトルと 熱物性の同時計測を行った。その結果、流速流向の設定値とQPHP法による計測値が良く合致した。また、DPHP法を 用いて計測した熱物性と本法による熱物性の計測値が良く合致した。数値解析において逆解析を行った結果、 流体輸送速度ベクトルと熱物性の出力値が入力値と非常に良く一致し、QPHP法における流速ベクトルと熱物性の 同時計測法の妥当性を明らかにした。

 第四章において、(?)QPHPセンサーを用い、水分不飽和状態の多重傾斜成層砂における間隙流速ベクトルと 当該砂の熱物性を同時計測し、(?)多重傾斜成層砂(MILS)における水移動の特徴およびQPHP法を用いて計測した 間隙流速ベクトルと熱物性の特徴を把握し、当該土層における流れの形態や、土層内部において生じている水流と 土壌水分の挙動を評価すること、および(?)不飽和水分状態におけるQPHP計測の実用可能性を模型実験と数値解析に より検証し、多重傾斜成層土の水分移動制御効果と層間の水分保持効果を実証した。

 五極子熱パルス(QPHP法は流体輸送速度ベクトルを計測する技術としてはまだ確立されていない。 また、多重傾斜成層(MILS)法においても、現段階では多孔質体中の汚染流体の流路を制御する技術として用いられていない。 今後、これらの技術を現場に適用させるためには、まだまだ多くの研究を行う必要があるが、近い将来これらが 現場に適用され、QPHP法やQPHPセンサーが農地・都市地盤・地下水環境のモニタリングシステムの一部を成し、 多重傾斜成層法が最終処分場や土壌水分環境制御技術に応用されることが大いに期待される。