本論文は、序論、Ⅰ.わが国における自然災害の現況と対策、Ⅱ.最上川支川須川流域における
土砂災害、Ⅲ.栃木県北部・福島県南部における土砂災害、Ⅳ.ソフト対策、摘要から構成されている。
Ⅰ.における研究成果は次のようである。
土砂災害は発生する現象によって、土石流、地すべり、がけ崩れに分けられ、防止対策や避難体制の対応の仕方が
それぞれによって違ってきている。
土石流は、斜面や渓流の不安定土砂が集中豪雨によって、一気に流出し、地すべりは土地の一部が地下水に起因して
すべる現象で、がけ崩れは、地すべりと同じように自然斜面や法面の一部が降雨や地震などで崩れる現象である。
一般的に、がけ崩れは小規模で、土砂の移動速度が速いため、その衝撃力が大きく、人命や家屋等が壊滅的な被害をうけている。
国土交通省は全国の土砂災害危険箇所の総点検を行っており、平成11年現在で土石流79,318箇所、地すべり11,288箇所、
がけ崩れ86,651箇所となっている。ここで、わが国における土砂災害の現状を概説し、研究の意義を示した。
Ⅱ.における研究成果は次のようである。
過去の災害事例として最上川支川須川上流域の蔵王火山地帯における土石流、地すべり災害を取り上げ、
その原因について検討を行い、また対策の状況についても示した。須川上流域の酢川は、蔵王火山活動により発生した
火山泥流地帯を侵食しながら流下して須川へ合流している、pH2を示す強酸性の河川である。
この酢川の上流部は火山活動により形成されたカルデラ地形の底辺部にあたり、降水が集まりやすく、脆弱な
火山噴出物によって覆われているため、たびたび土石流が発生し、甚大な被害をもたらしている。
地すべりは酢川沿いのほとんどの斜面に発生しており、火山変質を受けた基盤の新第三紀層の中にすべり面を
形成しているところが多く、この上部を覆っている火山泥流がギャップロック状になって、地下水の供給源となっている。
このような火山変質を受けている地すべりは、県内の他の地すべりには、あまり見られない特徴的な存在である。
Ⅲ.における研究成果は次のようである。
那珂川上流、阿武隈川上流については、1998年8月末の集中豪雨における災害について、現地調査及び
関係資料に基づいて検討を行った。この集中豪雨は、那須及び真船で時間雨量90mm、総降雨量で1200mmを越える
記録的な豪雨であった。この災害で、栃木県側は洪水災害、福島県側は土砂災害が特徴的であった。
ただし、どちらも流木による橋梁の被害、それに伴う道路の不通による災害が多かった。
福島県側の特徴の一つとしてライフラインの被災があげられ、大信村における集落排水施設の被害は処理場の水没、
送水管や中継マンホールへの土砂流入等で、地域全体が被災を受けたことが判明した。
次に、表層崩壊が崩壊地の70%近くを占めていることが判明し、その形態を見ると、スプーンカット状の崩壊が多く、
「太陽の国」の災害も、発生箇所を見るとこのような状況で、高速地すべりと称され、崩壊土砂は瞬時にして流動化して、
遠くまで到達する特徴を有していることが分かった。
Ⅳ.における研究成果は次のようである。
自然災害からの被害を軽減するには、特に人命の損傷を無くするには、「いつ」、「どこで」、「どのように」発生するのかを
予知予測をすることが必要である。この中で場所、規模については、過去の災害実績からその傾向について調査を行い、
その結果からある程度は知られるようになってきている。
しかし、これらの地域において防災工事のようなハード対策を全面的に展開することは、長い時間と莫大な費用が必要とされ、
安全対策は追いつかない状況である。そのため、ハザードマップを作成し、地域住民に公表することが急がれている。
このハザードマップには危険が予測される地域を示すと同時に、避難場所、避難経路あるいは情報のとり方などを示している。
ハザードマップの主なものに洪水ハザードマップ、土砂災害ハザードマップ、火山防災マップがある。
しかし、ハザードマップの公表や警戒避難基準雨量を設定しても、地域住民自ら防災意識を持たないと、運用が出来ず、
絵に描いた餅となりかねない。そこで、災害対策基本法で掲げている地元住民による自主防災組織による活動に
期待するところが大きいことを論述した。
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