氏 名 桝山 清人 本籍(国籍) 東京都
学位の種類 博士 (農学) 学位記番号 連研 第288号
学位授与年月日 平成16年3月23日 学位授与の要件 学位規則第4条第1項該当 課程博士
研究科及び専攻 連合農学研究科 生物環境科学専攻
学位論文題目 自然環境に配慮した護岸製品の現状と課題
(Present Situation and Future Problems of Nature-oriented Protection Products)
論文の内容の要旨

 本研究は、護岸製品・材料(これ以降本論文では製品に材料を含む)に注目し、河川分野における これまでの多自然型工法と護岸製品の改良の歴史を整理・分析し、現在使用されている製品の特徴と問題点を明らかにする。 多自然型工法の問題点は耐久性と維持管理の難しさにある。平成14年の洪水によって、多自然工法で施工された 河道区間において発生した災害を調査・解析し、多自然工法施工との関係を明らかにした。

 第1章では、従来の多自然型護岸工法の研究では、製品そのものに着目した研究は僅少であるが、 その重要性を述べ本論文の目的を示した。次に、本研究で関連のある既往論文を調査・整理して本論文の意義を明らかにし、 さらに本論文の論点を整理し、構成と概要を述べた。

 第2章では、市販されている多自然型護岸製品の種類および特徴を整理した。現在市販されている製品は 300種類以上あり、材料などによってかご系、自然石系、植生系、ブロック系に5分類にできる。 製品数をタイプ別にみるとブロック製品が半数を占めることが明らかになった。さらに、各種製品とも内容から 経済性、生態系、環境への配慮、施工能力、施工後の管理、適用(耐久性・強度)に重きをおいて開発されていることがわかった。

 第3章では、第2章で行った製品分類を基に、多自然型製品が開発、改良される要因について歴史的な変遷から 調査を行った。その結果、製品の開発、改良には、動植物の生態への配慮のほか、自然環境保護に対する世論の高まりを 受けた行政の動向(法律の改正、通達など)や経済的背景が大きく関わっていることがわかった。さらに強度など 力学的に根拠がある製品が必要なことから、技術指針や設計法などが発行されたあとに、各種製品ともそれら 基準値にそった製品が開発されている。

 第4章では、護岸製品の施工・維持管理方法について、多自然工法を採用した発注者にヒアリング調査を実施し、 実際の事例と既存参考図書に書かれている内容との乖離点、問題点を整理した。多自然型川づくりが始まった当初は、 参考にする図書もなく施工が行われていたが、最近ではある程度の実績を基にして書かれた、施工に役立つ図書が増えていることが わかった。しかし、多自然型で施工する場合、一般に市販されている図書は参考程度であって、治水、景観、生態系など 様々な問題があるため、現地に適した最良の方法で行う必要がある。多自然型製品の機能が発揮されない位置に設置した例や、 施工中の不十分な対応から、地域住民や保存会などの民間活動団体の苦情を受けた例もある。

 また、維持管理方法についての参考図書は、まだあまり出版されていないのが現状である。 施工後の維持管理については、地域住民の協力が重要であるが、河川との関わりが希薄になった今日、理解を得ることは 難しい状況にはなっている。草取りの問題で多自然型工法が当初計画と変更させられた地域もある。今後地域住民の 理解が得られるように努力するのはもちろんのこと、多自然型製品として維持管理のかからない製品の開発が望まれる。

 第5章では、多自然型工法で河道整備された護岸について、2002年7月の台風で被害の大きかった岩手県、 山形県に現地調査を行い被災した箇所の原因分析を行った。その結果、河川砂礫堆の形成と水流蛇行からみて、 洪水時の水衡部位置と予測される箇所に、強度の不十分な多自然型工法が施工された例が見られた。 また、洪水水衡部に当たる護岸の前面河床が深掘れしたために、護岸災害を起こしていた例もあった。改修や整備を 進めるにあたっては、洪水時の水衡部を予測して、適切な工法をより慎重に選定する必要がある。

今後の課題
 多自然型川づくりが提唱され、10年あまりが経過し施工方法については成功事例、失敗事例などのデータが 数多く蓄積されてきている。単に仕様書どおりに施工するだけでなく、施工河道の特徴に対応した多自然型工法が必要である。 今後、多自然型工法を成功させる課題として、次のようなことが挙げられる。

(1)河川技術者の育成について
 河川はそれぞれ性質が違ううえ、同一河川であっても、上流部、中流部、下流部でそれぞれ違う。 仕様書のなかには、必ず瀬、洲、淵が生態系にとって重要な役割があると記載されている。技術者もその重要性がわかっている。 しかし、洪水後どのように河道が変化するかを予測して護岸製品を適切な場所に設置しているとはいいがたい。 今後は、施工後の河動変化の読める技術者の育成が望まれる。

(2)多自然型製品機能の説明について
 多自然型製品は、現在多数市販されている。第2章および第3章で見たように設計流速や過去の失敗点を踏まえた 製品が改良され、開発されている。しかし、多自然工法施工後の維持管理が重要な問題であるにもかかわらず、 それに関する記述の少なく、耐用年数や維持修繕方法についての記載も不十分である。

(3)維持管理について
 多自然型工法施工後の維持管理において、わが国では、雑草除去作業が重要な課題である。 地域住民への草刈作業の委託が困難で、多自然工法が採用できない例もある。計画の早期段階から地域住民の意見を聴取し、 理解を求めて、維持管理作業においての協力を得る必要がある。 同時に、維持管理作業を軽減できるような製品開発も重要な課題である。