氏 名 石川 奈緒 本籍(国籍) 宮城県
学位の種類 博士 (農学) 学位記番号 連研 第286号
学位授与年月日 平成16年3月23日 学位授与の要件 学位規則第4条第1項該当 課程博士
研究科及び専攻 連合農学研究科 生物環境科学専攻
学位論文題目 カオリナイト懸濁液の粒子構造とレオロジー挙動について
(The Particle structure and rheological properties of kaolinite suspensions)
論文の内容の要旨

 粘土は自然界にある興味深い物質のひとつであり、環境問題が騒がれる今日、地球に優しい 自然の素材として注目されており、多くの分野で研究が進められている。しかし粘土の特性やそのメカニズムに関する 不可解な部分は多く残っている。その中でも粘土懸濁液の流動特性は非常に不可思議な点が多く、温度や固相率、pH、 溶媒の種類、そしいてもちろん粘土の種類によって大きく異なる。 流動挙動について性格に把握することができない大きな原因は、粘土懸濁液中の構造を直接観察することが 未だ不可能であることにある。これまで、多くの研究者によって粘土懸濁液中における粘土粒子の結合形態について 議論されており、いくつかもっともらしいモデルも提案されている。しかし固相率の変化によって懸濁液内の構造が 変化することは十分考えられることであるものの、構造に関する定量的な検討は非常に困難であり、ほとんど行われていない。 粘土懸濁液の流動特性について解明するには、粘土懸濁液中の構造に関する定性的、定量的な把握が不可欠である。

 本研究では、カオリナイト懸濁液の流動特性と粒子構造について考えてきた。最初に、粘土懸濁液が時間依存性流動を 示すMooreの理論を出発点とし、カオリナイト懸濁液の流動特性について主に温度、固相率、せん断速度について考察した。 粘性率の時間依存における変化傾向は、しばらく増加した後一定の値に収束するというMooreモデルの他、線形的に 変化する線形モデルと指数関数的に増加する指数増加モデルの3種類に分類することができ、リンクの形成と破壊で 粘性率の時間変化を説明するMooreのモデルだけでは説明できないことが明らかとなった。さらに固相率、温度と 変化傾向の分類表から、多くの影響因子が流動特性に混在し、現象を複雑化していると考えられた。

 そこで次に、粘性測定始めの粘性率、すなわち初期粘性率について、温度と固相率という2つの影響因子について 検討を行った。固相率と初期粘性率の自然対数をとった値は線形関係を持ち、また温度と初期粘性率に関しては Andradeの式と一致した変化傾向を示していた。結果として、固相率と温度から初期粘性率を求める式を提案することができた。

 懸濁液内の粒子構造は懸濁液の挙動に重要な影響をもたらす。懸濁液内の粒子構造についての検討を目的とし、 ミクロな構造を観察するために一般的に用いられているSEMでの観察を行った。ただしSEM観察には試料の 乾燥処理が必要となるため、乾燥処理による内部構造の変化が懸念される。そこで、凍結温度を3段階に設定して 凍結乾燥処理を行い、構造の変化を観察することによって凍結乾燥処理についての影響も検討した。本研究で最も小さい 設定固相率(20%)で、最も高い凍結設定温度(-30℃)条件の場合、凍結乾燥試料はハニカム構造であったが、 フリーザーで凍結した他の凍結乾燥試料ではハーフパイプ状の構造をしていた。液体窒素で凍結した試料はスポンジ状 構造をしており、固相率の増加に従いスポンジのポアは小さく、よりごちゃごちゃした構造となっていた。 また、含水状態のままでも観察が可能であるESEMでの観察により、液体窒素による急速凍結乾燥では、懸濁液状態を ほとんど保持した状態でカオリナイトエアロゲルを作製することができることが明らかとなった。

 また、試料の凍結時に凍結中の試料の温度変化を測定し、熱伝導率方程式を用いて有効熱伝導率を求めた結果、 凍結温度の違いによる有効熱伝導率の変化は見られず、Frickeの式を適用することによって、固相率の増加により 懸濁液中の粒子配向が進むという予測が示された。

 上記のSEM観察では、粒子構造の定性的な検討を行ってきたが、定量的な考察を行うため、作製した カオリナイトエアロゲルについて圧縮強度試験を行い、その弾性率と圧縮強度から粒子構造について考えた。 固相率の増加に伴い弾性率、圧縮強度とも指数関数的に増加していた。これを構造と関連させて考えるため、 SEM観察により得られた画像からカオリナイトエアロゲルを正六角形ハニカム構造と仮定し、ハニカムモデルに 当てはめて考察した。すると固相率30~50%において弾性率と固相率に関しては正六角形ハニカムモデルに適用することが でき、また圧縮強度と固相率に関しては、固相率がハニカムモデルで予想されるより105オーダー 大きい効果を示すことが明らかとなった。