氏 名 大木 保善 本籍(国籍) 山形県
学位の種類 博士 (農学) 学位記番号 連研 第283号
学位授与年月日 平成16年3月23日 学位授与の要件 学位規則第4条第1項該当 課程博士
研究科及び専攻 連合農学研究科 生物環境科学専攻
学位論文題目 樹木の枝枯れに関与するPezicula属菌(アナモルフ:Cryptosporiopsis属菌)の分類、 病原性および培地上における光形態形成に関する研究
(Study on Pezicula(anamorph Cryptosporiopsis) associated with dieback of trees and shrubs in Japan- their classification, pathogenicity, and photomorphogenesis in culture)
論文の内容の要旨

 Pezicula属菌(アナモルフ:Cryptosporiiopsis属菌)は盤菌類、ビョウタケ目に 属する菌類である。樹皮上に無柄または短柄を持つ、黄色~橙色の肉質子のう盤(径0.5~1.5mm)を形成し、 アナモルフは楕円形~長楕円形の比較的大形の分生子を形成する。主に低木や樹木の枝組織に肉生的、あるいは 寄生的に生息する。Verkley(1999)のモノグラフによると、本属菌はアナモルフのみ知られている種も含めて37種記録されているが、 日本では樹木病原菌として4種の報告があるのみで、まとまった分類学的研究はなされていない。

 本研究では、①本邦におけるPezicula属菌の分類・同定、②樹木への胞子接種による病原性の検討、 ③人工培地上でのP.sinnamomeaの光形態形成について一連の実験を行った。

①日本産Pezicula属菌(アナモルフ:Cryptosporiopsis属菌)の分類・同定
 枯死あるいは枯れつつある枝(直径1~2cm)に寄生している糸状菌相を調査するため、組織分離法を用いて菌類を分離した。 その結果Phomopsis, Phoma, Pestalotiopsis, Dothiorellaなど様々な他の菌群とともに、Pezicula属菌 (アナモルフ:Cryptosporiopsis属菌)が分離された。現在まで、35種の低木または樹木(その内17種の 植物は本菌群の新宿主)から114菌株のPeziculaあるいはCryptosporiopsis属菌を分離した。 イヌビワから分離されたCryptosporiopsis属菌は、形態、培養性状より未記録種と考えられ現在新種記載中である。 Pezicula eucrita、C.versiformisは日本新産種、P.cunnamomeaは、日本ではもっぱら針葉樹からの 報告であったが、新たに広葉樹10種(ウルシ、オオヤマザクラ、オニグルミ、カシワ、カツラ、クヌギ、サワシバ、 シダレカンバ、ソメイヨシノ、ノリウツギ)から分離された。形態、培養性状に加え分子系統解析(5.85SrDNAおよび ITS領域)を行った。その結果、特に高いブートストラップ値を示した各クレードは、形態および培養性状による グループ分けと一致し、それぞれ独立した種と考えられ、7つのtaxonomic speciesを認めた。これらは今後新種記載を 予定している。頻繁にサクラから分離されたCryptosporiopsis属菌株は系統樹内に散在した。 よってサクラ樹に感染するCryptosporiopsis属菌が複数種あることが示唆された。

②子のう胞子・分生子接種による病原性試験
 ソメイヨシノ(1年生、ポット植え)の枝にP.cinnamomea(No.3115,サクラ分離株)の胞子懸濁液を 注射接種したところ、7ヵ月後に接種部にややふくらみが見られたが、外観無病徴であった。しかし解剖観察の結果、 木部組織に縦方向に上下各2~4cmの褐変が見られ、褐変部からP.cinnamomeaが高頻度に再分離された。 サクラ樹由来のP.cinnamomea(No.3115)とCryptosporiopsis sp.(No.2463, 2776)を用いて同様な接種試験を行い、 2年後に再分離を行った。外観健全、あるいは一部枯死落葉した枝でも内部に褐変がみられ接種菌が再分離された。 枯死枝からも同様に、他の菌とともに接種菌が再分離された。枯死枝から他の枝枯性菌類と一緒に分離されることから、 同様に弱い病原性をもった菌類数種と共に樹木枝枯れに関与していること、宿主の活力が低下したときにそれら菌類が活動を 始めることが考えられた。この実験で、P.cinnamomea(No.3115)接種サクラ枝を採取し、湿潤シャーレに置き、 近紫外光(BL-B蛍光灯)を照射したところ3~4週目に接種部付近に分生子果と子のう盤が同時に形成された。 人工条件下で接種枝上に分生子果および子のう盤を形成させたのは初めてであり、本菌の自然界における分生子果 および子のう盤形成に光が関与していることが考えられた。

P.cinnamomeaの培地上における子実体の光形態形成
 本菌はジャガイモ寒天平板、BL-B照射下で培養すると、はじめ分生子果、その後子のう盤を形成する。 この分生子果および子のう盤形成に有効な光波長を調べた。その結果、近紫外光(BL-B:波長域320~400mm)が 有効であることが明らかとなった。白色蛍光灯光も弱い効果が見られたが、これはここに含まれるBL-B光によるものと思われた。 20℃、24時間BL-B照射下で培養した時に最短の2週間で成熟した子のう盤が得られた。この条件下で、 子実体形成過程の表面構造を電子顕微鏡(SEM)により明らかにした。菌叢にBL-B照射すると、菌糸の 立ち上がりが観察され2~3日後に未熟な分生子果が形成された。5~6日目に分生子果から分生子の放出が観察され、 その時期に分生子果の底部に子のう盤の原基が生成されることがミクロトーム切片の観察で明らかになった。 その後子のう盤原基が発達し約2週間目に成熟した子のう盤が得られた。