氏 名 | 海野 洋揮 | 本籍(国籍) | 静岡県 |
学位の種類 | 博士 (農学) | 学位記番号 | 連研 第282号 |
学位授与年月日 | 平成16年3月23日 | 学位授与の要件 | 学位規則第4条第1項該当 課程博士 |
研究科及び専攻 | 連合農学研究科 生物環境科学専攻 | ||
学位論文題目 | 草類の耐塩性におけるフルクタンの理化学的役割に関する研究 (Studies on physicochemical roles of phlein in salt tolerance of forage grasses) |
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論文の内容の要旨 | |||
温帯原産のイネ科牧草は高緯度乾燥地域に分布し、地球植生のおよそ30%を占める。 その体内にはフレイン(β-2,6-フルクタン)を蓄積し、耐塩性に優れる種が多い。本研究は、イネ科牧草の 耐塩性におけるフレインの関与およびそのメカニズムを明らかにしたものである。 まず、塩ストレスによる牧草炭水化物濃度の変化を調べた。各種牧草の中、耐塩性草種のみ塩ストレスにより フレイン濃度が増加し、これは高分子フレインの増加によるものであった。単少糖は増加しなかったことから、 牧草においては、浸透圧調節による耐塩性促進は機能しないものと考えられる。 次に、塩ストレスで増加したフレインによる耐塩性への関与を調べた。新たに開発したカリウム溶出による 耐塩性測定法を用いて調べた。ショ糖ローディングにより牧草フレイン濃度を高めると、塩ストレス下における カリウム溶出が抑制され、耐塩性が高まることが明らかになった。 最後に、フレインによる耐塩性促進メカニズムを調べた。牧草プロトプラストにフレインを始めとする 各種外生炭水化物を導入し、糖種、分子量、結合様式による耐塩性の差異を比較検討した。 単少糖とそのアナログーの導入では、アラビノース、キシリトール、フルクトビオース、トレハロースは耐塩性を高め、 フルクトース、グルコース、ショ糖、1-ケストースは高めなかった。したがって、フレインを構成する単少糖種は、 それ自身では耐塩性を示さないことが明らかになった。また、耐塩性を高めた糖種はエカトリアルOH基を多くもつことから、 水の構造化が耐塩性に有効であることが示唆された。 フルクタンの導入では、フレイン型、イヌリン型(β-2,1-フルクタン)、トリチシン型(1位で分岐する β-2、6-フルクタン)の全てにより耐塩性が高まった。これらのポリマーはCH2基とエカトリアルOH基に 富むため、リン脂質膜親和性および水構造化能が高い。このため、オルガネラ膜の保護、およびタンパク質機能の 保持により耐塩性で機能することが示唆される。また、フレイン型の導入においては、分子量の増加にともない 耐塩性が高まり(32,000まで)、その後プラトーに達した。これより、分子中耐塩性有効基の数が耐塩性に 関連すること、および過度に巨大な分子は有効基がマスクされることが示唆される。前述のように、塩ストレスにより 牧草の高分子フレインが増加したことは、耐塩性の促進に有効と考えられる。 グルカンの導入では、アミロース、プルランは耐塩性を高め、デキストラン、可溶性デンプンは高めなかった。 前者の糖鎖は大きな螺旋であり、その有効基はマスクされることなく機能したと考えられる。 上記炭水化物導入の結果から、フレインは糖鎖の螺旋が大きく、このため豊富な耐塩性有効基はマスクされることなく 機能するものと考えられる。 フルクタン植物の進化はイヌリン型が局地的乾燥下において、その後フレイン型が全域の乾燥低温下において それぞれ出現し、分子量はフレインがイヌリンより大きい。糖鎖の螺旋径はフレインがイヌリンより大きいことから、 機能を保持した両フルクタンが自然界に存在しているものと考えられる。 |