氏 名 丹治 幹男 本籍(国籍) 北海道
学位の種類 博士 (農学) 学位記番号 連研 第280号
学位授与年月日 平成16年3月23日 学位授与の要件 学位規則第4条第1項該当 課程博士
研究科及び専攻 連合農学研究科 生物資源科学専攻
学位論文題目 乳および乳製品中の機能性脂質の化学的組成およびその応用に関する研究
(Studies on chemical composition of functional lipids in milk and dairy products and their application)
論文の内容の要旨

 本研究では、乳および乳製品に含まれる機能性脂質に関する研究を進める上で、乳由来の 脂質のみならず、応用面を考えて乳に深く関与した微生物を用いた機能性脂質の発酵生産に関する研究を進めた。 まず第Ⅱ章では、乳の機能性脂質について以下の機能性脂質の含量および化学的組成を明らかにした。

1.ヒト乳中の高度不飽和脂肪酸(PUFA)の分布
 ヒト乳に含まれるPUFAは、全体に含まれる量としては3%前後と少ないものの、極性脂質に局在することが 明らかとなり、比較のために分析した育児用調製粉乳では極性脂質クラスの脂肪酸組成がヒト乳と異なっていた。 従って、調製粉乳には未だ改善の余地が残されているものと考えられた。
2.国内産牛乳および乳製品の共役リノール酸(CLA)の含量およびその変動要因
 牛乳中のCLAの含量や存在形態および変動要因を明らかにすることを目的とし、北海道で製造された牛乳・ 乳製品についてCLAおよび関連する脂肪酸の含量を分析した。その結果、国内の製品のCLA含量は欧米の 製品と同程度であり、CLAは極性脂質に局在していた。更に、CLAの変動要因を調査した結果、季節的変動の 他に地域差や飼養形態に影響されることが明らかとなり、それは試料の影響によるものと考えられた。 その他に、発酵微生物による関与が示唆された。
3.乳製品のスフィンゴミエリン(SPH)含量
 各種粉乳製品におけるSPHの含量を、リン量を測定する従来法に加えてHPLC-ELSD法に供して分析を行った結果、 サンプル1g当たりのSPH含量は、最も多いものでバターミルクパウダーの約1.8mgであった。

 以上の結果から、機能性脂質は乳中では微量であるため、第Ⅲ章および第Ⅳ章でそれらの脂質を増量化、 あるいは広く産業的に利用するため、乳関連の微生物を用いた機能性脂質生産のための基礎研究を行った。

 第Ⅲ章では、発酵微生物がCLA含量に及ぼす影響を明らかにし、乳製品におけるCLAの増量化を検討するため、 世界各地の伝統的発酵乳製品より分離した乳酸菌をリノール酸添加MRS液体培地で培養し、その培養液の CLA含量を分析した。その結果、供試45菌株の中でLactobacillus helveticus 1株のみにCLA生成能が あることが見出されたが、CLA生成能は既報に比べて低かった。この結果により、CLA生成能は乳製品から分離された 乳酸菌にもあることが示された。しかし、乳酸菌が示す本能力の活性は弱いため、発酵乳製品のCLA含量に及ぼす 影響は僅かであり、CLAを増量化した発酵乳製品を開発するためには、更なる培養条件の検討が必要であると考えられた。

 第Ⅳ章では、北海道の主要な農畜産副産物であるホエーを原料に、機能性脂質であるセレブロシドを発酵生産する 技術の開発を目的として、乳糖資化性酵母(乳酵母)に蓄積されるセレブロシドの含量やその構成分組成について精査した。 更に、培養温度が乳酵母のセレブロシド含量と化学的組成に及ぼす影響を明らかにした。供試した乳酵母の菌体1g当たりの セレブロシド含量は、0.1mg以下から1.82mgの範囲であった。Kluyveromyces lactis について菌株間の比較を 行った結果、菌体1g当たりのセレブロシド含量は0.92mgから1.36mgの範囲であり、セレブロシドの主要な分子種は 1-O-D-Glucosyl-N-2'-hydroxyoctadecanoyl-9-methyl-4-trans, 8-trans-sphingadienine であることが判明した。また、K.lactisを用いて培養温度を変化させた際のセレブロシドの変動を調査した結果、 通常の培養条件である25℃と比較して15℃の培養では菌体当たりのセレブロシド量が約40%低下し、主要な 構成スフィンゴイド塩基である 9-methyl-4-trans, 8-trans-sphingadienine の割合は10%程 高くなっていた。従って、K.lactis は低温下での適応反応としてセレブロシドの含量や構成分組成を改変する 能力を持つことが判明した。