氏 名 | 住吉 渉 | 本籍(国籍) | 北海道 |
学位の種類 | 博士 (農学) | 学位記番号 | 連研 第278号 |
学位授与年月日 | 平成16年3月23日 | 学位授与の要件 | 学位規則第4条第1項該当 課程博士 |
研究科及び専攻 | 連合農学研究科 生物資源科学専攻 | ||
学位論文題目 | 中性ならびに酸性ヒトミルクオリゴ糖の泌乳期における変動の解析 (Determination of each oligosaccharide in the milk of Japanese women during the course of lactation) |
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論文の内容の要旨 | |||
人乳中に約7%の糖質が含まれるが、そのうちの80%を2糖ラクトース(Gal(β1-4)Glc)が、 20%を100種類以上存在するミルクオリゴ糖といわれる複雑なオリゴ糖群が占めている(12~14g/l)。 ラクトースは乳児が授乳した後、小腸で加水分解を受け、単糖として吸収されて乳児の栄養源として利用される一方で、 ミルクオリゴ糖は小腸内で消化・吸収されず、大腸に運ばれて病原性細菌やウイルスが腸管上皮に付着するのを阻止し、 乳児への感染防御機能を主に果たしていると推測されている。また、それらは乳児腸管内で感染防御に関係の深い ビフィドバクテリウムの増殖を促進するプレバイオティスクとしての働きや、一部の糖に結合したシアル酸は 吸収されて乳児の脳成分の合成に利用されるなどの機能を果たすことが指摘されている。 従来のヒトミルクオリゴ糖研究において、各オリゴ糖の定性的な分析は行われているが、個々のオリゴ糖が どの泌乳時期にどの程度含まれるかの定量分析を行ったケースは、この研究に着手した時点では報告例がなかった。 E.coli, Vibrio cholera, Helicobacter pyroli, Strep tococcus pneumoniae, Campylobacter jejuni などの 病原性細菌やウイルスまた細菌の生産する毒素に対し、どのオリゴ糖がどの時期に上皮付着阻止作用を示し、感染防御機能を 果たしているか解明する点からも、個々のオリゴ糖の定量が必要であった。 本研究では、分娩後4日、10日、30日、100日の乳において、13種類の代表的な中性糖 (3-フコシルラクトース、2’-フコシルラクトース、ラクト-N-テトラオース、ラクト-N-ネオテトラオース、 ラクト-N-フコペンタオースⅠ、ラクト-N-フコペンタオースⅡ、ラクト-N-フコペンタオースⅢ、 ラクト-N-ジフコテトラオース、ラクト-N-ジフコヘキサオースⅠ、ラクト-N-ジフコヘキサオースⅡ、 β3’-ガラクトシルラクトース、β4’-ガラクトシルラクトース、β6’-ガラクトシルラクトース)および 6種類の代表的な酸性糖(3’-N-アセチルノイラミニルラクトース、6’-N-アセチルノイラミニルラクトース、 シアリルラクト-N-テトラオースa、シアリルラクト-N-テトラオースb、シアリルラクト-N-テトラオースc、 ジシアリルラクト-N-テトラオース)の定量分析を行った。定量分析にあたっては、クロロホルム/メタノールによる 糖質の抽出、ゲルろ過、2-アミノピリジンまた 3-メチル-1-フェニル-5-ピラゾロンを用いた誘導体化後の 逆相また順相高速液体クロマトグラフィー(HPLC)による分離・定量方法によって行った。 その結果、4日および30日の乳で優先的な中性オリゴ糖はラクト-N-フコペンタオースⅠであったが、 各中性オリゴ糖は泌乳期の経過によって固有な変動パターンを示した。酸性オリゴ糖は泌乳初期では 6’-N-アセチルノイラミニルラクトースが主要成分であったが、泌乳の経過とともに減少した。 3’-N-アセチルノイラミニルラクトース含量も泌乳の経過とともに減少したが、減少幅は 6’-N-アセチルノイラミニルラクトースよりも低く、分娩後100日の乳では両者の含有量は近づいた。 この結果、シアル酸を含むオリゴ糖は泌乳初期に乳児にとって重要であり、とくにα2-6N-アセチルノイラミン酸を 含むオリゴ糖の重要性が示唆された。本研究以外ではイタリア人とメキシコ人について、個々のオリゴ糖の定量分析を 行った例が報告されているが、とくにイタリア人についての定量結果と本研究結果では、定量値ならびに個々のオリゴ糖の 泌乳時期による変動パターンに著しい違いが認められ、ヒトミルクオリゴ糖の人種による変動が示唆された。 |