氏 名 栁野 利哉 本籍(国籍) 青森県
学位の種類 博士 (農学) 学位記番号 連研 第271号
学位授与年月日 平成16年3月23日 学位授与の要件 学位規則第4条第1項該当 課程博士
研究科及び専攻 連合農学研究科 生物資源科学専攻
学位論文題目 ニンニクの種苗増殖と育種に関する研究
(Studies on propagation and breeding in garlic)
論文の内容の要旨

 ニンニク(Allium sativum L.)は、栄養繁殖性作物の中でも特に種苗の増殖率が低く、また、 積極的な育種は行われていない。本研究は、組織培養等の手法や稔性系統等の材料を利用しながら、ニンニクの 効率的な種苗増殖や育種のための技術について検討したものである。

 ニンニクのウイルスフリー化と増殖を同時に行うことを目的として、培養茎頂からの多芽体形成に関して、 培地組成と材料の貯蔵温度の影響を検討した。「福地ホワイト」の茎頂を、IAAとBA各0.2mg/l を添加した LS培地で前培養した後、組成を変えた8種類の培地に移植した。最も多くのシュートが形成された培地は、 無機塩はアンモニア態窒素濃度を下げた修正LS、生長調節物質はNAA1mg/l と BA2mg/l、ビタミンはB5、 固化剤は寒天を用いたものであり、培養21週目で、茎頂当たり6.2本の健全なシュートが得られた。 次に、「福地ホワイト」の側球を異なる温度条件で貯蔵した後、茎頂を摘出して培養し、多芽体形成への影響を 調査した。3℃で側球を貯蔵することにより、培養後に水浸状化して生育を停止するものが多くなり、 健全なシュートの形成数は劣った。20℃に保管した区が最も成績が良く、培養開始後19週目で、茎頂当たり 5.7本のシュートが得られた。これらの結果は、培養茎頂からの多芽体の形成を安定させる上で有効な知見であり、 公的機関や民間企業等で事業的に茎頂培養を行う際に活用できると考えられる。

 ニンニクの地上部に形成される珠芽を種苗増殖に活用するため、栽植密度と低温処理の効果について検討した。 「福地ホワイト」の珠芽を重量別に区分し、1株1本植(3111本/a) と1株2本植(6222本/a) を比較した。 生産された種球の総数については差が見られず、密植が可能なことが示されたが、1株1本植の方が大きな側球の 割合が高くなり、特に1g以上の珠芽ではその効果が大きかった。次に、「福地ホワイト」の珠芽を、3℃25日間の 低温処理を行った後圃場に定植し、無処理の場合と比較した。低温処理を行うことによって出芽が早まり、 特に種球重の小さい区で効果が顕著であった。収穫された鱗茎の重量は、2g以下の珠芽を植付けた区では有意な 差が見られ、同じ個数の数芽から生産された種球の総数は、珠芽重0.5~1.0g では無処理区より30%程度多くなり、 珠芽重1.1~2.0gでは10%程度増加した。これらの方法は、種苗供給に携わる機関や生産現場で容易に導入できると思われ、 通常は廃棄されることの多い珠芽の活用を促す上で有効と考えられる。

 組織培養を利用して、ニンニクの染色体数や形質の変異体を作出することを試みた。 「福地ホワイト」の茎頂をコルヒチンで処理した後、培養して植物体を育成した。処理当代では多くの個体が キメラであったが、栄養繁殖次代では70個体中6個体の四倍体(2n=32)が得られた。 四倍体は二倍体(2n=16)に比べて生育が劣り、鱗茎重や側球数が減少した。次に、「富良野在来」の茎頂を コヒルチンで処理した後、2,4-DとPFPを含む培地でカルスを誘導し、植物体を再分化させた。 再分化個体ごとに系統とし、8系統について染色体数を調査したところ、4系統が二倍体、2系統が四倍体であり、 残り2系統は2n=31 と 2n=30 の低四倍性異数体であった。四倍体や異数体は、二倍体に比べて生育が劣り、 鱗茎重が小さかった。二倍体の1系統は花茎本数や側球数が特異的に多い突然変異体と考えられ、茎ニンニクや 葉ニンニク用として利用できる可能性が考えられた。一方、「福地ホワイト」の茎頂からカルスを誘導し、 培養開始から24週間目及び49週間目に再分化培地に移植した。前者では87.0%、後者では15.6%がシュートを 再分化した。再分化個体の3~4%は四倍体であり、培養期間が長くなると斑入り個体が増加した。 鱗茎重や側球数に関しては対照区との間で有意差が認められなかったが、葉長については系統間で変異が見られた。 これらの結果から、四倍体や異数体には実用性が認められなかったが、二倍体の有用な変異体を作出することは 期待できると思われた。

 ニンニクはほとんどの系統が不稔であるが、原産地である中央アジアで収集された系統を調査して稔性を 持つものを見出し、自殖実生やリーキとの種間雑種を育成して、その特性を調査した。中央アジアで収集された 系統のうち、キルギスタン産の1系統「RAR930064」が高い花粉稔性を持つことが認められたが、種子稔性は低かった。 この系統の実生3系統を育成したところ、茎葉や鱗茎形質についての変異が大きく、自殖弱勢も見られた。 次に、リーキ品種「ワンダー」(2n=32)を母本とし、ニンニク稔性系統「RAR930064」(2n=16)を花粉親とした 交雑を行い、子房培養により種間雑種を育成した。得られた植物は、染色体数が2n=24であり、RAPD分布により 雑種性が確認された。種間雑種は旺盛な生育を示し、側球により栄養繁殖が可能であった。茎葉、鱗茎とも 両親のそれよりも大きく、側球数については両親の中間的な値を示した。また、ニンニクに含まれる臭気成分を ニンニクの1/4程度保持していた。これらの結果から、この組合せの種間交雑は有望と思われ、穏やかな ニンニク臭や機能性を持った新野菜としての利用が期待できると考えられた。