氏 名 WANG, Jian Jun
王 建軍
本籍(国籍) 中国
学位の種類 博士 (農学) 学位記番号 連研 第266号
学位授与年月日 平成16年3月23日 学位授与の要件 学位規則第4条第1項該当 課程博士
研究科及び専攻 連合農学研究科 生物生産科学専攻
学位論文題目 中国における農民負担問題に関する研究
(A Study of the Problem of the Farmer's Burden in China)
論文の内容の要旨

 本研究の課題は、中国の改革開放期における農民負担の実態とその問題の成因を多面的かつ 総合的に考察することである。本研究の考察の内容と結論は、以下のように要約できる。

 第1に、改革開放期における農民負担制度は、「家庭請負制」の導入による農村改革によって形成された。 「家庭請負制」の農村改革によって、農家が従来の集団労働者から現在の家族経営の主体へ変わり、負担の主体ともなった。 しかし、地域の公共公益事業のやり方が人民公社時代を引き継ぐことになったので、農民負担の内容は依然として 人民公社時代と同じく、「国の分」と「集団の分」がともにある。すなわち、国への農業税の納付、食糧売渡しの他、 郷鎮・村への上納金及び労働出役、または各種の「社会負担」などがあり、これらが改革開放期における農民負担の 内容である。農家は政府への農業税などの税金を負担すると同時に、都市住民には課されていない郷鎮・村への 上納金と労働出役も負担している。こうして都市部と異なる農村地域税制がなされている。 これは、農村改革後における農民負担制度の基本的な特徴である。

 第2に、改革開放期における農民負担の実態は、負担項目が多く、かつ不透明で過重であることが基本的特徴である。 そして、経済発展の遅れた中・西部の食糧主産地の負担が重く、同地域では低所得農家ほど負担率が高くなっていることは、 農民負担の格差の存在を示している。さらに、農民負担制度システムの欠陥が農民負担問題を深刻化させている。 請負農地割り、人口・労働力割りという一律的課税方法が農家所得の多少と関係なく、不公平な負担をもたらしている。
 また、上意下達の負担決定方式は、村民への強制、または費用及び労務の徴収が地域公共公益事業の実際の 需要状況と無関係に決められやすい、などの問題をもたらした。また、支出の不十分な監督管理によって、 負担金の効果的な使用が確保されていない。

 第3に、以上のような農民負担問題は農村地域の行財政体制に関わっている。都市と農村との二重社会構造の下で、 農村地域には国家財政からの投資が十分ではないので、自助努力による「自籌資金」を特徴とする郷鎮財政制度を 必要としている。したがって、地域事業を行うため農家に費用徴収することが制度上では許可されている。

 分税制改革は、このような郷鎮財政の基本的な制度を変えるに至っていないのみならず、強化さえしている。 分税制改革によって、財源を順次に上級政府に集中し、県・郷鎮地方財政の困窮化を深刻化させている。 税源が不足している郷鎮は、農家から各種の費用を徴収せざるを得ない。これは農民負担を過重にする基本的な 財政制度的要因である。
 他方、中央集権そして縦割り行政システムの下で、地方行政機構の肥大化、行政費用の膨大化が深刻化している。 こうした状況は上記の地方財政の困窮化をさらに深刻化させている。そして、これだけではなく、上意下達の行政管理方式がなされ、 郷鎮の行政権力が拡大しているのに対して、組織されていない農民の交渉・抵抗力が非常に弱い。 すなわち、一党支配体制の下で肥大化している行政機構とバラバラの農民との間の極めてアンバランスな権力関係は、 前述した国家財政制度やその下での地方財政の構造的問題と並んで、農民負担問題の発生するもう1つの成因である。

 第4に、1984年から99年まで中央政府による農民負担の軽減政策は、上記の農村行財政諸問題を総合的に 検討しておらず、加えて行政執行上の混乱によって、その実施効果がそれほど現れていない。 2000年以来、農民負担の軽減を出発点とした農村税制改革は進められ、一定の成果を収めた。 しかし、改革後、郷鎮・村の財政減収が地域の公的事業や行政運営に悪影響を与えている。 農地負担の増加が新たに負担の不公平をもたらし、農業の競争力を弱めている。 「一事一議」制度は農村における民主政治の実現の遅れと形骸化を示している。

 これらの問題は現行改革の限界を示している一方で、本研究で解明した農村地域の行財政体制の諸問題が 農民負担問題の解決を制限していることを示唆している。これまでの農村税制改革は未完成の段階にあり、 過渡的なものに過ぎず、それをさらに推進しなければならない。