氏 名 ZHAO, jiang
趙  江
本籍(国籍) 中国
学位の種類 博士 (農学) 学位記番号 連研 第264号
学位授与年月日 平成16年3月23日 学位授与の要件 学位規則第4条第1項該当 課程博士
研究科及び専攻 連合農学研究科 生物生産科学専攻
学位論文題目 中国における農業政策金融に関する研究 -中国農業発展銀行を中心に-
(A Study On Government Programmed Loans in China -The case of ADBC)
論文の内容の要旨

 本論文は、現時点での農村金融システムの全体像と問題点を整理した上で、発展銀行による 食糧買付専用資金及び貧困扶助融資の2つの業務を中心に、食糧流通制度改革と農村貧困地域の経済発展において 中国農業発展銀行が果した役割を検討することを目的としている。

 中国農村金融制度改革は、1978~1993年の中国農業銀行を中心とした段階と1994以降の農村信用社を中心とした 段階に分かれ、前の段階では、中国農業銀行の再建と、農村信用社の協同組合的性格への復帰を柱としていた。 第2の段階では、農村信用社を農村金融の中心にするための自営化改革と、政策金融機関である中国農業発展銀行の 設立が重要な出来事であった。改革の結果として、中国では中国農村信用合作社、中国農業発展銀行、中国農業銀行の 3者からなる新しい農村金融システムは整備されてきたが、農村金融において依然として多数の問題が存在している。 まず、農村信用社は経営上と制度上の問題から、農家への貸出にはきわめて消極的である。農業銀行は、県レベルの 支店の統廃合や、経営重心の都市部への移転などの理由で、農家の生産活動から離脱しつつある。 最後に、発展銀行は融資業務を食糧買付へ特化したことによって食糧流通制度改革に大きく貢献したが、農業生産性の 向上や貧困問題の解消など面にやはり寄与していなかった。

 発展銀行は、自身の改革を通じて、食糧流通にとって最も重要である食糧買付専用資金と、食糧流通市場の 主体である国有食糧企業との管理を強化し、食糧流通制度改革を支えてきた。発展銀行は食糧流通制度改革において、 ①食糧買付専用資金の確保と流用防止、②国有食糧企業に対する融資資金の管理、③食糧流通制度の市場化改革の 促進、という3つの役割を果して来ている。そのうち①は食糧流通に必要な資金量を保証し、これによって食糧生産を 増産させ、供給面で市場化の前提条件を整えた。②は国有食糧企業の経営を監督してそれらの不良債権を減少させ、 これによって発展銀行の資金が繰返して使用できるようになり、財政負担を軽減させている。 ③は農業生産構造調整期における食糧生産から換金作物生産への転換を推し進め、農業構造の改善にも貢献している。

 また、発展銀行がかつて一時期に行った開発融資について、中国陜西省のY県で実施された貧困扶助融資を対象として、 食糧生産、換金作物と畜産業、農家生活インフラ整備の三つの面から、融資の効果について検討した。 貧困扶助資金の化学肥料や農用ファルムなどへの投入によって、土地の単位産出量を引上げて貧困農家の食料問題を 解決した。また、野菜などの作物や、家畜の飼育、それに関連する農業施設、流通・加工企業などへの投入は、 農家の収入増において重要な役割を果していた。さらに、生活条件の改善に使われた貧困扶助融資も農業生産、 農家所得増における意義も少なくなかった。Y県における農家の平均収入の増加率と貧困人口数減少との両者から 見て、貧困扶助融資の効果も検証できた。発展銀行は、食糧流通制度の市場化改革にしたがって、融資業務が縮小していて、 新たな融資分野を必要としている。一方で、2000年に入って以降、農業経済成長の停滞、農村部と都市部との間で所得格差の 拡大、WTO加盟による外国農業の脅威、貧困人口減少の鈍化などの問題が顕在化してあり、中国農政の新しい課題に なっている。過去の実績から言っても開発融資をもう一度発展銀行の業務分野に繰り入れることが、中国農業の 持続的増長により貢献すると考えられる。