氏 名 XU, Zhe Gen
徐 哲根
本籍(国籍) 中国
学位の種類 博士 (農学) 学位記番号 連研 第263号
学位授与年月日 平成16年3月23日 学位授与の要件 学位規則第4条第1項該当 課程博士
研究科及び専攻 連合農学研究科 生物生産科学専攻
学位論文題目 集団有郷鎮企業の私有化に関する研究-中国・遼寧省西部地域における実証分析-
(A Study on the Privatization of the Collective Enterprises in Rural Town -A case study in Liaoning Province in China-)
論文の内容の要旨

 本論文は、1990年代後半以降における、中国での集団所有郷鎮企業の私有化を研究対象にした。 研究の目的は遼寧省西部地域における実態調査をもとに、その私有化展開及び私有化に伴う企業内外の変化の実態と 特質を解明することである。本論文の構成は序章と終章の他、第1章から第6章で構成されている。

 序章「問題意識と研究課題」では、本論文の研究対象として集団所有企業の私有化に注目する理由として、 1990年代の株式合作制の導入は集団所有企業の「固有問題」を解決したのか、私有化に伴い長年蓄積された 集団の資産が保持できるのか、また、私有化企業が独立経営体として合理的・効率的に経営を行い、農村経済の活性化に 役立つのか、などに関わるからであると指摘した。また、これまでの研究であまり分析が行われてこなかった郷鎮企業の 発展と私有化が相対的に遅れている遼寧省凌源市M鎮を分析対象とした実証分析が本研究の特徴である。

 第1章「私有化の背景」は、1990年代半ばまでの集団所有企業の経営状況及び経営不振の原因は鎮・村政府が 企業の実質的所有権をもつ集団所有企業の所有権制度にあることを明らかにした上で、その解決方策としての 株式合作制の導入は企業を鎮・村政府から独立した経営体になりにくいという限界があったと指摘した。

 第2章「私有化のプロセス」では、資産の評価・売却・買収が不平等、不公正的であったため、企業資産の 大量流出を招いたことを分析した。次いで私有化した企業は有効な経営管理策をとったため経営状況は私有化前より 改善されたことを明らかにした。

 第3章「私有化に伴う企業と郷鎮政府との関係の変化」では、19社の事例分析から、企業と郷鎮政府との 財産所有関係と役割が明確になり、郷鎮政府が企業の利益分配から切り離されることによって企業は営利企業及び 独立納税体として経済活動を行うことになったことを示した。

 第4章「私有化に伴う企業経営主体の変化」では、私有化に伴って、経営者パーソナル・ネットワークの 企業に対するサポートが鎮・村政府の幹部から親族・親戚に、行為目標が「社区」から企業利潤の重視に、 企業経営者の行為を制約する主な要因が「鎮・村幹部」、「行政部門」、「コミュニティ民意」から企業経営効率性に 関わる「市場競争圧力」に変わったことを明らかにした。

 第5章「私有化に伴う-一企業経営管理の変化」では、M鎮19社企業の企業内部面での実態分析によって、 私有化企業は、企業機能をもつ経営管理機構への転換、従業員の削減、賃金の向上、労働効果とリンクする労働報酬 支払方法の採用、労働分配率の上昇、生産への資本投資の増加などの有効な経営管理策を取ったことを明らかにした。 他方・企業の主要役職の親族化により企業への優秀な人材の採用の妨げ、財務管理でのどんぶり勘定・単式簿記の採用、 経営者と親族による私的消費の増加など、企業経営管理の変化は経営の不合理性・不効率性を強めたことも合わせて指摘した。

 第6章「私有化に伴う企業役割の変化」では、私有化が郷鎮企業の雇用吸収力を弱め、余剰労働力の吸収を 低下させ、農民の所得格差を拡大させたこと、また、鎮財政の財源の主体は集団所有制企業から私有制企業に転換したことを 明らかにした。

 終章では、これまでの章で検討・考察してきた内容を整理・要約していたうえに、今後の課題を指摘した。