氏 名 YANG, Ji Shuang
楊 際双
本籍(国籍) 中国
学位の種類 博士 (農学) 学位記番号 連研 第259号
学位授与年月日 平成16年3月23日 学位授与の要件 学位規則第4条第1項該当 課程博士
研究科及び専攻 連合農学研究科 生物生産科学専攻
学位論文題目 栽培ギクの半数体作出に関する基礎的研究
(Basic studies on haploid plants production of chrysanthemum, Dendranthema×grandiflorum)
論文の内容の要旨

 栽培ギクは雑種性が強い六倍性植物であるため、交雑育種には多大な労力と長年月を要する。 半数体を作出すれば、交雑育種年限の大幅な短縮が期待されるが、従来、栽培ギクの半数体作出に関する報告は 見あたらない。本研究では、栽培ギクの半数体作出に関する基礎的知見を得る目的で、四つの実験を実施した。

1.葯培養および小胞子培養
 1)葯培養 7品種を供試して諸要因の影響を検討した。カルス形成に対して、花粉の発育ステージは一核期、 培地にはMS、改変MS、B5およびN6の各基本培地にNAA 0.1~0.5、MCPA 1.0、2,4-D 0.5、BAP 0.5~2.0および GA3 0.5mg・liter-1を組み合わせた添加培地で良好であった。 これらの培地におけるカルス形成率について品種間差異は小さかったが、不定芽形成率のそれは大きかった。 カルス形成に対して、培養中の光条件および低温前処理の影響は不明瞭であったが、糖飢餓前処理および高温前培養は 抑制された。不定芽形成率は、糖飢餓前処理区、低温前処理区、高温前培養区およびこれら両温度処理の連続処理区で いずれもかなり低かった。シュートは5種類の培地区、糖飢餓前処理区、低温前処理区および低温前処理と高温前 培養連続処理区に由来する不定芽から伸長し、再生個体が得られた。‘青森黄’の培養中の葯組織を経時的に観察した結果、 カルスは花粉のう間の連結組織細胞由来であった。花粉は、培養3~5日後に核が分裂して2個の核を含む花粉が 観察されたが、10日後、連結組織のカルス化に伴い退化した。再生個体の染色体数およびアイソザイム分析の結果、 親植物と同じ数およびパターンであった。以上から、葯培養による半数体の作出には、花粉のう間の連結組織細胞の カルス化を抑制し、花粉の分裂を促進する方法の検討が必要であることを提案した。
 2)小胞子培養 3品種を供試し、一核期後期~二核期前期の小胞子を用い、小胞子培養を行い、品種、培地、 小胞子の密度、低温前処理、高温前培養、培地のショ糖濃度、パーコール密度勾配法による小胞子選抜などについて 検討した。小胞子の形態変化や分裂が全く観察されず、栽培ギクは小胞子培養によるカルスまたは不定胚形成が 困難な植物であることが示唆された。

2.未受精胚珠培養
 4品種を供試し、開花直前の筒状花から未受精胚珠を摘出、培養し、諸要因の影響を検討した。 カルス形成率は培地、品種により異なり、不定芽はO-4培地由来‘紫唐松’のカルスのみで形成され、不定芽から シュートが伸長し、再生個体が得られた。カルス形成に対して、ショ糖濃度の増加は抑制したが、光条件および 低温前処理の影響は、不明瞭であった。‘紫唐松’の再生個体の染色体数は親植物と同じであった。 以上から、再生個体は未受精胚珠の体細胞組織由来のものと推測され、本培養法による半数体作出には、体細胞由来の カルス形成の抑制、雌性発生カルスまたは不定胚形成を促す方法を探索する必要があることを提案した。

3.偽受精胚珠および子房培養
 4品種の花粉を供試し、軟X線照射処理した後、2種類の正逆組み合わせで偽受精を行った。‘青森黄’と ‘壬生早生’の正逆組み合わせの偽受精胚珠培養では、シュートは無処理区、600Gy および 900Gy処理区で 胚経由で形成された。‘鶴岡桃’と‘晩菊’の正逆組み合わせについては、‘鶴岡桃’ב晩菊’の偽受精胚珠培養では、 シュートが無処理区のみで胚経由で得られた。同じ組み合わせの偽受精子房培養では、シュートは無処理区で 胚経由および600Gy区の不定芽経由で形成された。‘晩菊’ב鶴岡桃’の偽受精胚珠培養では、シュートは無処理区 のみで胚経由および900Gy処理区由来の不定芽経由で形成した。本培養実験で得られた再生個体の染色体数は いずれの子房親と同じであった。以上から、本培養法による半数体の作出には、予め供試品種の自家不和合性の有無の 確認、放射線照射強度および外植体の置床時期などを詳細に検討する必要があることを提案した。

4.栽培ギクと野生ギクとの交雑由来の子房培養
 野生ギク2種と栽培ギク2品種を供試し、種間交雑後の子房培養により半数体作出の可能性を検討した。 Dendranthema boreale(2n=18)ב青森黄’(2n=54)およびD.japonicum(2n=18) ב壬生早生’(2n=54)で交雑後に子房培養の結果、再生個体がそれぞれ5および1個体得られた。 D.borealeב青森黄’由来の5個体の染色体数は、いずれも同一個体内で2n=26を中心に2n=27と28の異数性細胞が 観察された。減数分裂では、6Ⅲ+4Ⅱ+1Ⅰの染色体対合型が、また、三価染色体の出現頻度が最も高く、 花粉稔性は2.1%~2.5%であった。さらに、生育様相と形態的特性の調査およびRAPD分析の結果、再生個体は雑種と確認し、 以上から、D.borealeと栽培ギク品種との交雑由来の子房培養により雑種性の半数体を獲得できる可能性が示唆された。 一方、D.japonicumב壬生早生’の組み合わせで1個体のみ再生紙、2n=36のほか2n=39~41の異数性細胞が 観察された。種々の形態的特性調査の結果、再生個体は雑種と確認された。以上から、栽培ギクの半数体作出には、 種間交雑後の子房培養法が一手法と考えられるが、さらに、多種類の野生種と栽培ギク品種との交雑後の子房培養を 検討することを提案した。