氏 名 おさない よしあき
長内 敬明
本籍(国籍) 日本
学位の種類 博士 (農学) 学位記番号 連研 第246号
学位授与年月日 平成15年3月31日 学位授与の要件 学位規則第4条第1項該当 課程博士
研究科及び専攻 連合農学研究科 生物生産科学専攻
学位論文題目 リンゴ果実の臭化メチルくん蒸による果実内褐変に関する研究
( Studies on Internal Browning Induced by Methyl Bromide Fumigation on Apples. )
論文の内容の要旨

 輸出用‘ふじ’の果実では、病害虫防除を目的として臭化メチルによるくん蒸処理が 行われているが、この処理によって、‘ふじ’の果実内褐変や果皮の変色などの障害が発生することがある。 臭化メチルによるくん蒸障害については1930年代から数多くの報告が出されているが、 果実生理の観点からの研究はほとんどない。 そこで、臭化メチルくん蒸処理によって発生する果実内褐変についてくん蒸後の密閉度、 収穫後の貯蔵期間、処理濃度などさまざまな角度から発生要因の解明を行った後、 発生の機作について呼吸系に関連する有機酸含量の面から検討し、さらに、 果実内褐変の非破壊的検出の可能性を検討した。

1.‘ふじ’(無袋)の臭化メチルくん蒸処理後の包装形態の影響
 臭化メチルくん蒸処理した果実を密閉度の高い発泡スチロール箱や発泡スチロール箱内に ポリエチレンフィルムを内装した中に包装すると、箱内の二酸化炭素濃度が高まり果実内褐変が発生した。 褐変が進んだ果肉ではポリフェノール含量が少ない傾向が認められた。 これらの結果から、褐変防止には、輸出用カートンのような密閉度の低い包装を用いることが有効であることが判った。

2.臭化メチル処理による果実内褐変果発生の品種間差異
 主要9品種のリンゴ果実を臭化メチルくん蒸後、発泡スチロール箱内に密閉したところ、 供試したどの品種でも箱内の酸素濃度には変化は見られなかったが、二酸化炭素濃度の上昇が見られ、 上昇の程度は臭化メチル処理区で無処理区より高い傾向であった。 また、供試品種の中では‘ふじ’が最も褐変が発生しやすい品種であった。

3.‘ふじ’(無袋)の収穫後、臭化メチル処理までの貯蔵期間の影響
 収穫後10-50日間0℃に貯蔵した果実に臭化メチルくん蒸処理を行ったところ、 酸素濃度は30日及び40日貯蔵果でやや低い傾向を示した。 二酸化炭素濃度には貯蔵期間による違いは見られなかった。 果実内褐変の程度は、収穫後40日までの処理では高く、50日目のくん蒸では低かった。 よって、0℃で50日以上貯蔵した果実に臭化メチルくん蒸を行うことによって、 褐変の発生を若干少なくすることができると考えられる。

4.‘ふじ’(無袋)の臭化メチル処理濃度と処理後の通気が果実内褐変と有機酸組成に及ぼす影響
 臭化メチルの濃度を38g、48g、58g・m-3の3段階でくん蒸処理を行い、通気後密閉貯蔵したところ、 二酸化炭素濃度は臭化メチル濃度が高いほど高くなったが、果実内褐変果は発生しなかった。 果実を入れた密閉容器内に21g・m-3の臭化メチルを注入し、15℃10日間貯蔵したところ、 すべての果実で褐変が発生したことから、処理後の通気が果実内褐変の防止に有効であることを見出した。 処理果では有機酸の中でコハク酸の比率が有意に増加したことから、有機酸代謝に影響していると推定された。

5.‘ふじ’(無袋)の臭化メチル処理による果実内褐変果の非破壊的検出の可能性
 果実を密閉容器に入れ、その中に臭化メチルを注入し、0℃ 日、15℃ 日貯蔵したところ、 すべての果実で果肉褐変が認められた。 通常の破壊法で測定した果肉硬度には処理の影響は認められなかった。 レーザー・ドップラー法で測定した第2、3共鳴周波数及び果肉の弾性率、 及び同法で測定した第2共鳴周波数から2KHzまでの振動強度の合計値はいずれも処理果で低かった。 これらの結果から、臭化メチル処理によって発生した内部褐変果を、レーザードップラー法で 第2及び3共鳴周波数を測定し、それから算出した果実の弾性率、高周波における振動強度の低下によって、 非破壊的に検出できる可能性が示された。

 本研究の結果、臭化メチルくん蒸処理後の褐変防止には、 輸出用カートンのような密閉度の低い包装を用いること、くん蒸前貯蔵期間を0℃50日以上とすること、 さらにくん蒸後の通気処理が有効であることがわかった。 また、臭化メチル処理によって褐変が発生しやすい品種は‘ふじ’であった。 また、臭化メチルは果実の有機酸含量と組成に影響を及ぼしていると推定された。 さらに臭化メチル処理によって発生した内部褐変果の物理性をレーザー・ドップラー法で測定することによって、 非破壊的に検出できることが示された。