氏   名
のなか かつひこ
野中 勝彦
本籍(国籍)
岩手県
学位の種類
博士(工学)
学位記番号
工 第 18 号
学位授与年月日
平成 16年 3月 23日
学位授与の要件
学位規則第4条第2項該当 論文博士
研究科及び専攻
工学研究科 工学専攻
学位論文題目
TiAlおよびTiAl-X (X=Cr,Be)金属間化合物の組織と変形挙動に関する研究
論文の内容の要旨

 本研究は,次世代の軽量耐熱材料として有望視されている TiAl金属間化合物(以下TiAlと呼ぶ)の組織と変形挙動に関するものである. TiAlの密度は約3.8g/cm3でNi基超合金の1/2であり,850℃におけるクリープ比強度は Ni基超合金より優れている. このようなTiAlの実用化において最も大きな障害は常温伸びが1%以下と乏しいことである.

 序論では本研究の背景,目的ならびに本論文の構成について述べた.

 第2章ではTiAlの圧縮歪が20%以上あることに着目し,常温圧縮変形挙動を明らかに することを目的とした. 組成の異なるTiAl(46-53mol%)試料から,粗大層間隔ラメラ組織(Ti-46mol%Al) 及びγ等軸粒組織(Ti-50mol%Al)を有する圧縮試験片(3×3×6mm3)の組織を現出した. これに圧縮歪みを数%ずつ加算して与え,その都度応力を除荷し,変形組織を SEM(secondary electoron microscopy)で詳細に観察し破断まで繰り返した(繰り返し圧縮試験). その結果,ラメラ組織及びγ等軸粒組織共に塑性変形能の結晶粒による相違が大きいことが分かった. TiAlの圧縮変形におけるクラック開始時期は圧縮歪2%であり,発生したクラックの 種類はラメラ組織では: ①粒界クラック,②ラメラ状α相のクラック,③ラメラ界面のクラックに分類された. γ等軸粒組織では:①粒界クラック,②粒界から粒内に向かうクラック,③粒内クラックに分類された。 圧縮歪みの増加に伴いクラックの数が主に試験片のせん断方向の領域で増加した. クラックサイズは圧縮歪みの増加と共に増大し,平均結晶粒径100-300μmの圧縮試験片では 主クラックサイズが600μm以上になると急激に剪断破断することが明らかになった. また,TiAlのクラック伝播はラメラ組織においてはシアリガメント, ディフレクション 及びマイクロクラックが形成されクラック進展の抵抗になっていた. 一方,γ等軸粒組織においては主にシアリガメントが形成された.

 第3章では,TiAlにCrを添加し組織,機械的性質及び変形挙動について調べた. その結果,TiAl-γ相中のCr固溶限はAl組成により変化し1273Kでは2.5~3.7mol%であることが 分かった.固溶限以上のCr添加により第2相としてCr-rich(β)相が晶出した. TiAl-Cr基合金の曲げたわみ量は化学量論組成及びTi-rich組成では増加し, Cr2mol%で最大となり,無添加材と比較して約2倍に向上した. 一方,Al-rich組成の曲げたわみ量はCr添加量の増加に伴い逆に低下した. これは,Crの占有原子サイトがTi-rich組成ではAlサイトであるが,Al-rich組成では Tiサイトであるためと考えられた. 延性が改善したγ等軸粒Ti49Al49Cr2基合金については,繰り返し圧縮試験により 変形過程を詳細に調べた. その結果,クラックの開始時期は圧縮歪4%となり,2元系TiAl(圧縮歪2%)より 遅くなることが分かった. クラックの種類は2元系TiAl-γ等軸粒の場合と同じく3種類に分類された. Ti49Al49Cr2基合金におけるクラックの成長は2元系TiAlと比べて遅く, 変形帯は2元系TiAlより多く現れた. この原因の一つとしてCr添加によりTi-Al結合の一部がTi-Cr結合になることにより, 転位運動が活発になり塑性変形が容易になったこと. 第二にCr添加により環境中の水分(水素原子)による環境脆化が抑制され, TiAl本来の延性が発現した可能性などが考えられた.

 第4章では,TiAlの延性改善効果を示す新たな第三元素の探索を目的として, TiAlに化学的に活性で酸素との親和力が極めて強いBeを添加し組織学的変化ならびに 機械的性質について調べた. その結果TiAl中のBe固溶限は0.1-0.5mol%以下であることが分かった. (Ti51Al49)-0.5mol%Be基合金の常温延性は無添加材と比較して圧縮歪みと曲げたわみ量は 1.5倍に向上することが明らかになった. これはTiAlの常温延性改善効果が確認されているCrまたはMn添加材と同程度の 延性改善効果を示すものであった. また,(Ti51Al49)-0.5mol%Be基合金の酸素含有量は2元系TiAlと比較して約1/4に 減少していた. このことからBe添加による延性改善因子は酸素不純物の減少あるいはTi/Al比の 増加等による転位運動の活発化等が考えられた. また,TiAl-Be基合金の高温酸化特性は2元系TiAlより向上することが分かった.

 第5章では,TiAlの変形機構について検討した.TiAl, Ti49Al49Cr2及び (Ti51Al49)-0.5mol%Be基合金の圧縮試験片に圧縮歪5%を与えた試料の切断面組織を 光学顕微鏡観察することにより,すべり変形と双晶変形を区別できることに着目し 双晶変形の割合を求め,TiAlの延性改善因子について検討した. その結果,TiAl-Cr基合金に観察された双晶変形の割合は2元系TiAlのそれとほぼ同じであった. しかし,TiAl-Be基合金ではCr添加材の1.8倍の双晶変形が観察された. このことからTiAl-Cr基合金ではすべり変形が主体となり,TiAl-Be基合金では 双晶変形が活発化していることが示唆された.

 第6章では,各章の結果を総括としてまとめた.