氏 名 渡邉 剛 本籍(国籍) 山梨県
学位の種類 博士 (農学) 学位記番号 連論 第77号
学位授与年月日 平成15年3月20日 学位授与の要件 学位規則第4条第2項該当 論文博士
学位論文題目 天然型C28ブラシノステロイドおよび関連化合物の合成と生物活性に関する研究
(Studies on synthesis and biological activity of C28 brassionsteroids and related compounds)
論文の内容の要旨

 Brassinolide (BL) の発見以来、現在までに40を超える類似化合物[ブラシノステロイド(BRs)]が植物界から広く同定されている。 BRsは植物の生長現象に関与する様々な生理作用を示す。BRsは植物界には極微量にしか存在していないため、 BRs研究を行うためには合成による試料供給が必須である。

 本研究では、BL側鎖部の構築法を開発し、効率的なBL合成を検討した。 さらに、新規生合成経路上の化合物と考えられる6-deoxoBRsの合成も検討した。 一方、天然に存在する可能性のある28-homeBLあるいはBLの2,3-ジオール異性体の合成法を検討した。 また、スギの花粉/葯中の新規化合物の合成法も検討した。さらに、ゼニゴケ培養細胞におけるBL代謝物の同定用として26-norBRsの合成を検討した。

1)効率的な天然型C28ブラシノステロイドの合成
 BRsの合成上の焦点は、側鎖の連続した不斉中心を(22R, 23R, 24S)の絶対配置に制御し構築することであり、これまでに多くの合成法が報告され、 より効率的な合成法が模索されていた。本研究では、BL側鎖部の構築を、C22-アルデヒドに対するGrignard反応、 Claisen転位反応および不斉オスミウム酸化反応を鍵反応として用いることにより、効率よく達成できる方法を確立し、stig-masterolから16行程、 収率約15%でBLを合成した。本BL合成法は、現在のところ最も効率的な合成法である。 さらに、新規生合成経路上の化合物と考えられた6-deoxoteasterone (6-deoxoTE) も本側鎖構築法を利用して合成し、 また、6-deoxoTEを鍵化合物として共同研究者により、3-dehydro-6-deoxoTE, 6-deoxotyphasterolおよび6-deoxocastasteroneの合成が行われた。 また、BL生合成経路における早期と後期C6酸化経路を結ぶ化合物と考えられた6α-hydroxycastasteroneの合成も行った。 これらの化合物はBL生合成の後期C6酸化経路の解明に大いに役立った。

2)28-Homobrassinolideおよびbrassinolideの2,3-ジオール異性体の合成と生物活性
 スギの花粉/葯からは28-homoBLの2,3-ジオール異性体の存在が、また代謝実験からはBLの異性体の存在が示唆されていた。 これらの同定のために、28-homoBLあるいはBLの2,3-ジオール異性体の合成を行った。2-あるいは3-epi体の合成では、 A環エポキシド基の開裂あるいはA環2,3-ジオール基の部分保護・酸化を鍵反応として合成を行った。 2,3-Diepl体の合成では、対応する側鎖の⊿2-ステロイドのオスミウム酸化反応時に発生する異性体を用いて合成を行った。 共同研究者により、改良イネ葉身屈曲試験を用いて合成化合物の活性が調べられた結果、両異性体とも、2α,3α-, 2α,3β-(3-epi), 2β,3α-(2-epi)および2β,3β-(2,3-diepi)ジオール異性体の順に活性が減少し、 特に、2β,3β-ジオール異性体は極めて低い活性であることが明らかとなった。

3)スギの花粉/葯中に存在する新規ブラシノステロイドの合成と同定
 スギの花粉/葯中からは上記28-homoBLの異性体の他に、BLの代謝物と考えられる23-dehydroBLあるいはその異性体の存在が示唆されていた。 そこで、天然物を同定するための合成を行った。「2」のBL2,3-ジオール異性体より23-オキソBRs異性体を合成した。 共同研究者により、GC-MS分析が行われ、23-dehydroBL (cryptolideと命名)が天然物として同定された。 また、28-homoBLも天然物として初めて同定された。

4)26-ノルブラシノステロイドの合成を生物活性
 ゼニゴケの培養細胞を用いたBLの代謝実験により、26-norBLの存在が示唆されていた。 そこで、上記BL側鎖構築法を応用してその合成を行い、代謝物の同定に貢献した。 また、関連化合物の26-norcastasteroneと26-nor-6-deoxo-castasteroneを合成した。合成化合物の生物活性が共同研究者により調べられた。 イネ葉身屈曲試験では、26-norBRsは対応する天然型C28BRsよりも活性の低下が見られたことから、26位の脱メチル化は不活性化のステップであると考えた。 一方、エンドウの矯性突然変異体1Kbを用いた回復試験では、天然型C28BRsと同様な活性を示すものもあり、実験系によりBRsの効果が異なる興味ある結果が得られた。  以上、本研究では、天然型C28BRsの簡便な合成法を検討し、現時点で最も効率的なBL合成法を確立した。 さらに、6-deoxoBRsの合成を行い、新規BL生合成経路の解明に役立たせた。 BRs2,3-ジオール異性体の合成を行うことによって、エピメリ化による活性の低下を明らかにした。 また、新規化合物cryptolideをBLより合成を行うことによって、その天然物としての存在を明らかにした。 26-ノルBRsの合成を行うことで、その同定に貢献し、活性試験では実験系により効果が異なる興味ある結果を得た。

 本研究により、現在では天然型C28BRsあるいは関連化合物が容易に入手可能となり、それらの合成化合物は、BRs研究の進展に大きく貢献した。 本研究は、BRs研究の基礎となっている。