氏 名 赤澤 經也 本籍(国籍) 山形県
学位の種類 博士 (農学) 学位記番号 連論 第75号
学位授与年月日 平成15年3月20日 学位授与の要件 学位規則第4条第2項該当 論文博士
学位論文題目 枝豆と普通ダイズの未熟および完熟種子の理化学的特性に関する育種学的基礎研究
(Physico-chemical Characteristics of Immature and Mature Seeds of Vegetable-type and Grain-type Soybeans)
論文の内容の要旨

 枝豆の品質評価と品種改良の基礎的知見をえるための研究として、 未熟種子を野菜として食する枝豆ダイズと比較のため完熟種子を穀物とする普通ダイズを供試して以下の研究をおこなった。 1)完熟種子の吸水特性の差異、2)全糖と水溶性窒素含量の差異、3)水溶性窒素と遊離アミノ酸含量の関係と変動の特性、 4)播種期を異にした場合の全糖と水溶性窒素含量の変動、5)シンク・ソースバランスの変動の品種特性、 6)貯蔵条件を変えた場合の枝豆品種における官能的特性の変動と形質間相関を検討した。

 ダイズの完熟種子の吸水特性に関して、5つの吸水特性値で判別分析した結果、枝豆ダイズ品種群と普通ダイズ品種群が判別された。 そのうち、枝豆ダイズでは35品種中9品種(25.7%)、普通ダイズでは86品種中6品種(7.0 %)が誤判別された。

 枝豆の食味に関与していると推定される全糖と水溶性窒素含量を、ダイズの未熟種子と完熟種子を供試して分析した。 未熟種子段階で枝豆ダイズ品種群は普通ダイズ品種群と比べ、全糖および水溶性窒素含量ともに高い範囲に分布した。 完熟段階では両成分とも減少し、枝豆ダイズ品種群と普通ダイズ品種群とはほぼ同じ範囲に分布した。

 枝豆ダイズの未熟種子で高い傾向を示した水溶性窒素含量と遊離アミノ酸との関係を検討した。 ダイズの未熟種子において、遊離アミノ酸と水溶性窒素は高い正の相関を示した。 このことから、水溶性窒素含量はアミノ酸含量を推定するための指標となりうる。 また、7種類(アスパラギン、アラニン、グルタミン酸、アルギニン、セリン、ヒスチジン、バリン)の遊離アミノ酸は、未熟段階で高い含量を示し、 普通ダイズよりも枝豆ダイズで高い含量を示した。特に、アスパラギン、アラニン、グルタミン酸が高い傾向にあった。 7種類の遊離アミノ酸を用いて判別分析した結果、枝豆ダイズと普通ダイズの2つの品種群が判然と識別された。

 ダイズを年次および播種時期を異にして栽培し、水溶性窒素含量、全糖含量および遊離アミノ酸含量の変動と環境要因の変動の関係について検討した。 3含有成分の播種時期間、年次間および品種間の変動は有意であった。変動は種播日<年次間<品種の順で高い傾向がみられた。 また、3含有成分の含量の変動と食味の官能的特性との関係について検討した。全品種間を通してみると、 食味とこれら含有成分含量の間で有意な正の相関がみられたことから、これらの成分含量が枝豆の食味に影響する要因の一つであることが示唆された。

 ダイズのシンクを制限する莢切除処理と、ソースを制限する摘葉処理で栽培し、全糖と水溶性窒素含量の変動を検討した。 枝豆において含有する水溶性窒素含量および全糖含量はシンク・ソースバランスの制限効果は認められた。 しかし、含有成分の含量の変動には遺伝的要因も強く作用していることが推察された。

 ダダチャマメ品種、普通ダイズ品種を供試し、枝豆の収穫後の貯蔵形態および貯蔵温度を変えた場合の食味、香り、莢色の変動および3形質の品種間差異を検討した。 全糖、水溶性窒素含量が高いダダチャマメ品種が食味および香りに関して官能試験の高い評価値をえた。 また、普通ダイズ2品種で二つの成分含量が少なく食味および香りで低い評価値がえられた。

 以上の結果から、次のように結論できる。 1)完熟種子の吸水特性で2品種群が2群に判別されたのは、種子内の吸水に関与すると見られる物質ではないかと推定したが、 含有する全糖と遊離アミノ酸が関与していないことが示唆された。ただし、完熟種子段階で枝豆、普通ダイズ品種とも誤判別があり、 「枝豆」としての利用の複雑性が示唆された。 2)未熟種子に含有される全糖と水溶性窒素は、2品種群を比べると、枝豆ダイズ品種群に多く含まれ、 完熟すると含量が減少し、枝豆ダイズと普通ダイズの差は少なくなる。 すなわち、枝豆未熟種子は、採種適期に両成分が特異的に集積する特徴がある。 3)水溶性窒素含量と遊離アミノ酸は未熟種子において、高い正の相関を示した。 これらの相関を利用することで、水溶性窒素含量を指標として多数のダイズの品種・系統の検索と枝豆品種改良における系統選抜の簡易な指標となりうることを明らかにした。 4)全糖および遊離アミノ酸の変動は環境要因よりも品種固有の遺伝的要因に起因するものであることが推察された。 5)莢切除処理、摘葉処理の方法で、シンク・ソースバランスを制限した場合、全糖および水溶性窒素は遺伝的要因によって強く影響されることが推察された。 6)食味を官能的特性から検討すると、一般的に良食味であり、全糖、水溶性窒素含量が多い品種で食味および香りも良く、 2成分の含量が少ない品種で食味および香りも評価が低いということが実証された。