氏 名 高田 兼則 本籍(国籍) 山口県
学位の種類 博士 (農学) 学位記番号 連論 第74号
学位授与年月日 平成15年3月20日 学位授与の要件 学位規則第4条第2項該当 論文博士
学位論文題目 コムギの製パン性改良に向けた種子貯蔵タンパク質に関する研究
(Studies on wheat seed storage protein for improvement of bread-making quality)
論文の内容の要旨

 国産コムギはそのほとんどが軟質コムギであり主としてうどんとして加工されている。 その製パン性は低くパン用途には不向きなため、国内におけるパンの需要は大きいものの、その供給のほとんどは輸入コムギが占めている。 近年、ポストハーベストや遺伝子組換えの問題から食品の安全性について消費者の注目が高まっており、安全な国産コムギによるパンへの要望が高まっている。 実需者からはパン用国産コムギの安定供給を強く求められており栽培特性の優れたパン用国産コムギ品種の育成が強く望まれている。

 本研究は製パン性に優れる秋播コムギ品種の育成を目標に、製パン性の簡易評価法の確立、高分子量グルテニン(HMWG)サブユニットと製パン性との関係の解明、 超強力コムギの加工適正の評価と関連するタンパク質組成の解明を目的として行った。

1.コムギの製パン性の簡易評価法
 育種試験に適用可能な製パン性の簡便な推定法としてSDS-沈降テストについて検討を行った結果、 SDS-沈降テストの沈降量は膨張時間を24時間へ延長することにより、製パン性に大きく影響する不溶性グルテニン含量と非常に高い相関を示すことが明らかとなった。 さらに膨潤時間の延長性(SDSテスト改良法)はSDS-沈降テストと比べてパン容積との相関が高く、 製パン性の指標であるタンパク質含量やHMWGサブユニット構成によるGlu-1スコアよりも製パン性の推定に優れることを明らかにした。

2.製パン性の選抜効果
 SDSテスト改良法をスケールダウンし、小麦粉に代えて原麦から調整した全粒粉を用いたマイクロSDS改良法とパン比容積との相関を検討し、 SDSテスト改良法と同様にパン比容積と高い相関を得た。 さらに、製パン性の異なる母本を交配した交雑集団を用いて選抜差と遺伝獲得量からF3-F4世代での遺伝率を算出した結果、 タンパク質含量よりも極めて高い遺伝率が得られ、製パン性の評価が困難な初期世代での効果的な選抜が可能となった。

3.高分子量グルテニンサブユニットと製パン性
 種子貯蔵タンパク質のHMWGサブユニットに関する組換え自殖系統および準同室遺伝子系統を育成して、各サブユニットが製パン性に与える効果について検討を行った。 製パン性の評価はタンパク質含量、SDSテスト改良法、生地の破断力解析、ミキシング特性、製パン試験で行った。 その結果、各サブユニットの製パン性への寄与度は、Glu-A1ではサブユニット1と2*に差はなかった。Glu-B1はサブユニット17+18が最も高く、次いで7+8, 7+9, 6+8が同程度であった。 サブユニット20はGlu-B1のサブユニットでは最も製パン性が低く、製パン性に寄与の高いGlu-D1のサブユニット5+10をもつにもかかわらずGlu-D1の2+12などのサブユニット近い物性を示した。 Glu-D1では5+10の製パン性が最も優れており、4+12, 2+12, 2.2+12の製パン性は有意に低かった。Glu-D1サブユニット2.2+12または2+12は日本のコムギ品種の多数をしめるが、 これらのサブユニットをもつコムギは弱い物性を示し、製パン性が低かった。 製パン性に関する品種育成においては、Glu-D1は5+10をもち、Glu-B1は20を除くサブユニット、Glu-A1は1または2*のHMWGサブユニットの集積により製パン性を高めることが期待された。

4.超強力コムギの製パン性
 強力コムギと比較しても物性が極めて強い超強力コムギの製パン性について検討した。 穂発芽はコムギの加工適正を著しく低下させ、北海道のコムギ栽培で大きな問題となっているが、穂発芽被害に対しては、 超強力コムギは強力コムギよりも穂発芽被害における品質低下が小さく、低アミロコムギとされるアミログラフの最高粘度300B.U.以下のコムギでも高い製パン性を示した。 超強力コムギと国産の軟質コムギとのブレンドによる国産コムギの製パン性の改善について検討した結果では、 超強力コムギはブレンドによる軟質コムギの製パン性の改善効果が強力コムギよりも極めて高く、それは超強力コムギの示す極めて強い物性によることが明らかになった。 ブレンド粉は同程度のタンパク質含量の輸入銘柄に近い製パン性を示しており、加工適正の向上、特に機械耐性の改善の要望に応えられるものと期待された。 この特性に関係するタンパク質組成についてGlenleaに由来する低分子量グルテニン(LMWG)組成を置換した準同質遺伝子系統を育成し、 製パン性との関連を分析した結果、置換したLMWGが極めて強い物性と高いパン比容積を示すことが明らかとなった。 このLMWGはHMWGサブユニット5+10と同程度の物性への寄与が推測され、これらのタンパク質組成の集積により早期に超強力コムギが育成出来ると考えられた。