氏 名 大潟 直樹 本籍(国籍) 北海道
学位の種類 博士 (農学) 学位記番号 連論 第73号
学位授与年月日 平成15年3月20日 学位授与の要件 学位規則第4条第2項該当 論文博士
学位論文題目 単胚性テンサイにおける複胚珠果実の発現に関する育種学的研究
(Breeding study on occurrence of double ovules fruit in monogerm sugar beet)
論文の内容の要旨

 北海道で栽培されているテンサイは、1969年以降、果実形質に対して遺伝的単胚性が付与された一代雑種品種である。 そのため、一つの果実から1個体が出芽し、間引き労力の削減に大きく貢献してきた。 しかし、近年、遺伝的単胚性が付与されているにもかかわらず、一つの果実に複数の種子(胚珠)を含む複胚珠果実が単胚果実と混在する品種・系統の存在することが明らかとなった。 複胚珠果実は、単胚果実と外観上が同一であるため、機械的な精選が困難であり、果実品質上、大きな問題となっている。 このため、本研究は、複胚珠果実の発現に関する遺伝性ならびに諸特性を明らかにすることにより、複胚珠率を選抜により育種学的に低下させ、単胚性に優れる品種・系統の育成を目的として行った。 実験材料は、一代雑種品種・系統および種子親系統、また、種子親系統を構成する0型系統、特に、複胚珠率が高い「NK-183mm-0」を材料とし、複胚珠果実に関する遺伝変異と選抜効果、また、他形質との関連を調査した。 得られた結果の概要は次のとおりである。

 複胚珠果実を効率的に調査する方法に関しては、軟X線を果実に照射し、果実を非破壊に調査する軟X線法を検討した。 軟X線法は、果実を発芽させて調査する解剖法とほぼ同一精度で、複胚珠率の判定が可能であり、測定効果が極めて高いことを明らかにした。 このため、品種・系統の複胚珠率の評価に貢献するとともに、本研究が大幅に進展した。

 0型系統を用いた複胚珠率に関する系統内変異および個体選抜実験から、複胚珠率が低方向および高方向に固定可能であり、遺伝率も両方向間に差が認められなかったことから、複胚珠果実が、複数の遺伝子による量的遺伝であることを初めて明らかにした。 しかし、0型系統内で示された複胚珠率の系統内変異からは、個体選抜により複胚珠率を5%未満とすることはできなかった。 しかし、複胚珠率が低い0型系統を用いた系統間交配は、複胚珠率の変異が拡大し、系統間交配後代から、複胚珠率が低く、糖収量に優れた有望な0型系統を育成することができた。 また、育成系統の複胚珠率に関する系譜上の解析から、高い複胚珠性は、単胚素材系統の自殖化に用いられた自殖因子起源系統「TA-5-0」から主に導入されたことを明らかにし、「TA-5-0」を用いている諸外国の育種期間に単胚性に対する再考の必要性を示した。

 一代雑種品種・系統における複胚珠果実は、一代雑種種子が採種されるF1種子親系統の遺伝的形質であり、F1種子親系統の複胚珠率は、種子親を構成する両親系統であるCMS系統と0型系統の中間親の値に近似することを明らかにした。 実際、本研究から、複胚珠率が安定して低く、かつ、二胚率が低い単胚性に優れたF1種子親系統「(NK-195mm-CMS×NK-280mm-0)」を系統選抜した。 本系統を用いて、育成した「北海84号」は糖収量性が標準品種「モノホマレ」より優っていたことから、今後、単胚性に優れる系統選抜から、糖収量性に優れる有望な三系交配一代雑種を育成することは十分可能であることを明らかにした。

 系統間および系統内における複胚珠率と二胚率との間の相関分析の結果から、両者間に相関関係は認められず、また、二胚果実において外観上の単胚果実と同程度に複胚珠性が発現することを発見し、二胚性と複胚珠性が互いに独立して発現する果実形質であることを明らかにした。 このことから、両者を遺伝的に低い方向に改良する品種・系統の育成が可能であると結論した。

 採種個体における複胚珠果実の着生・分布様式の実験から、複胚珠果実が下位から上位の分枝にかけて増加し、また、二次分枝より一次分枝の方が複胚珠果実が多いことを明らかにした。 このため、複胚珠果実の形成は、分枝着生位置におけるテンサイの無限伸育性にともなった開花の早晩が果実および種子の形成・発育に影響され、採種個体上で生育が早く、旺盛な分枝において、果実(種子)の形成・発育が優先的に満たされ、千粒重の増加とともに複胚珠果実が増加するものと考えられた。

 以上の一連の結果から、テンサイの複胚珠性に関する多くの有用な遺伝・育種学的知見が得られ、遺伝的に複胚珠果実が安定して少なく、単胚性に優れる品種の育成が可能となった。