氏 名 船田 一彦 本籍(国籍) 山形県
学位の種類 博士 (農学) 学位記番号 連研 第242号
学位授与年月日 平成15年3月20日 学位授与の要件 学位規則第4条第1項該当 課程博士
研究科及び専攻 連合農学研究科 生物環境科学専攻
学位論文題目 頭首工における魚道への下流取付水路の水理に関する研究
(Hydraulic Studies on Downstream Junction of Fishway in Head Works)
論文の内容の要旨

 河川法の改正による河川環境の整備と保全を念頭におき, 農業用施設の一つである頭首工においても魚類の遡上降下の環境改善,いわゆる生態系への配慮が求められ, 魚道の新設・改修がなされるようになってきた。既存の頭首工の多くは,治水, 利水の諸条件を満たすものの生態系についてはあまり考慮されておらず, 魚道が新設されても機能しない事例もみられる。魚道と堰体との位置関係, 魚道と河道の状況などの中で魚類の遡上降下の環境改善策を検討することが重要となってきている。 その際,頭首工エプロン直下流に落差を設け,魚類のための生息の場を確保するような設計が取り入れられる場合がある。

 頭首工下流部にはエプロンと護床工が位置し,魚道改修時にこの部分に手を加えるには, 出水時でも減勢等から問題がなく,また取付水路が魚類等の誘導路として機能することが求められる。 本研究はこの点にアプローチしたものである。研究成果は次のようである。

 本論文は,緒論,Ⅰ.頭首工における魚道の改修事例と整備, Ⅱ.頭首工エプロン直下流における取付水路規模決定のための基礎実験,Ⅲ.現地における床止め工直下流の洗掘試験から構成されている。

 Ⅰ.における研究成果は次のようである。
1)三郷堰頭首工と赤川頭首工における魚道改修の事例を示した。特に, 赤川頭首工における魚道下流部への取付水路は誘導路として機能し興味深い工法である。 取付水路は,エプロン直下流部(護床工始端)において河川横断方向に設置されている。 そこで,赤川頭首工魚道への取付水路の水理模型実験を行ったところ,水理設計上特に問題となる流況は生じないことが判明した。
2)現地プール内の流況測定例と魚道流入部付近の増幅する水面変動等について示した。

 Ⅱ.における研究成果は次のようである。
 頭首工エプロン直下流部に取付水路のような小落差がある場合の洗掘規模に関する基礎実験を行い, これを基に取付水路規模の算出を試みた。
1)エプロン末端に越流堰を取付けて洗掘の様子を調べた。下流の洗掘床に床板を取付けての実験を行ったところ, 床板上に生ずる露出長L2は流量Qと床板の深さSの関数であった。次に,エプロン末端のフルード数Frを変えて実験を行った。 その結果,L2はおよそQ,S,Frの関数であることが判明した。
2)固定床から移動床へと自然流下(完全越流)する場合の実験を流量を変化させて行い,洗掘形状等を調べた。
 段落壁からの流下方向距離をXs,上流水路床からの洗掘深さをZsとし,最大洗掘深をZsm, その距離をXsmとすると,Xs/XsmとZs/Zsmの関係はほぼ一義的であった。
3)移動床に床板を取付け,この床板の設置深さを変えて実験を行った。 実験は移動床へ自然流下する場合と移動床に流入するフルード数を変えた場合の実験を行い,洗掘規模等を調べた。 そして,QとZsを与件とし,床板が無設置におけるXs/XsmとZs/Zsmの関係等を用いて, 洗掘規模等の推定について示した。

 Ⅲ.における研究成果は次のようである。
現地渓流河川に敷設した床固めの状況を調べた。敷設後2年を経て,出水により床止め工は移動・崩壊した。ここではその様子を概説した。
 床固めが移動・崩壊するメカニズムを把握するために水理基礎実験を行った。その結果,床固めの移動・崩壊には堰体直下流の洗掘のみならず, 減水時の河床窪みへの土砂移動,斜面の崩落が深く関与していることが判明した。

 本研究によって,魚道への取付水路の水理設計のための基礎が提示できたと思われる。 研究成果は頭首工における魚道整備のあり方を検討する際に有用であろう。

 実際の河道ではミオ筋等も反映し,取付水路内に堆砂し対策が必要となる場合も生じよう。また, 取付水路規模を大きくし淵として機能させる場合も生じよう。取付水路は河道流況に影響されるので, 工法確立のためには今後現地での情報蓄積と検討が必要と思われる。