氏 名 高橋 徹 本籍(国籍) 山形県
学位の種類 博士 (農学) 学位記番号 連研 第238号
学位授与年月日 平成15年3月20日 学位授与の要件 学位規則第4条第1項該当 課程博士
研究科及び専攻 連合農学研究科 生物資源科学専攻
学位論文題目 穀粒の物理・化学的処理による改質と加工食品への応用
(Modification of grains by physico-chemical treatment and its utilization for processed food)
論文の内容の要旨

 米粉の調理・加工における物性の制御が他の穀粉と比較して難しく, 製品の食品テクスチャーも劣ることなどから,食品加工原料としての利用範囲が限定されてきた。本研究は, 米の利用範囲拡大の一助に資するために,デンプンの改質方法として安全性に優れている物理的処理である加熱処理, 中でも乾熱処理ならびに湿熱処理による米粉の改質を試み,これらの物理化学的特性や調理・加工適性を検討した。

 乾熱処理米粉(HDT)の平均粒子径およびデンプン損傷度は,無処理米粉(UT)と比較して低下した。湿熱処理米粉 (HMT)のデンプン損傷度は,処理温度の上昇にしたがい増加し,湿熱処理は米粉の消化性を高める加熱処理であった。 また,加熱処理温度の上昇によって,米粉の明度は低下し,赤色度,黄色度は増加した。 HDTおよびHMTはUTと比較して糊化特性が変化した。X線回折測定によって,HMTの回折強度がUT,HDT160よりも低く, デンプンの部分的な非晶化が認められた。さらに,アミロースと脂質との複合体の形成も認められた。また, SEMによる構造観察の結果,加熱処理によってデンプン粒の形状が多角形柱から丸みを帯び,近接した粒同士の合一が観察された。 このような加熱処理米粉の糊化特性の変化や粒子の形状の変化は,加熱処理中のデンプン粒内におけるアニーリングによるためと推察した。

 各米粉から調製した糊化液の動的粘弾性測定から,HDT160がUTおよびHMT120と比較して弾性的挙動を示すことが明確となった。 また,各糊化液は降伏応力を持つ擬塑性流体であることが示されたが,HMT120の降伏応力や見かけの粘性率は他の試料よりも小さく, 流動が容易な糊化液であった。また,pHを変化させ,あるいはレトルト処理した各糊化液の粘度や還元糖量の測定から, UTよりも加熱処理米粉,中でもHMT120は耐酸性や耐熱性に優れた米粉であることが明らかとなった。さらに, 各米粉から調製したゲルのX線回折測定から,調製直後のHMT120はUTやHDT160と比べて結晶性を完全に消失しておらず, 湿熱処理は米粉へ加熱耐性を付与する加熱処理方法であることが明確となった。一方,加熱処理米粉の糊化度はUTよりも低く, 保存初期における老化も速いことが明らかとなった。

 UT,HDTおよびHMTで小麦粉の30%(w/w)を置換したパンの比容積は,対照系に比べて減少したが, 加熱処理米粉配合系の比容積はUT配合系と比べて減少した。米粉配合系のパン内相の色は,対照系に対する色差から, わずかに異なる程度であった。米粉配合系のパン内相の硬さは,特に底部が対照系と比較して硬く,中でもHMT配合系が硬かった。 これは,米粉の配合によって生地中のグルテン量が希釈され,網目構造を形成する骨格が脆弱となり, 気孔壁の厚さおよびパン内相の密度が増加したためであると推察された。

 エクストルージョンクッキング過程の各バレル領域におけるデンプンの規則構造の変化をX線回折測定より明らかにすることが可能となった。 HMT120単独系の結晶性は,UTやHDT160と比べて完全に消失しておらず,湿熱処理が米粉の加熱やせん断への耐性を付与することを示唆した。 米粉を小麦粉に配合して調製した膨化物は,米粉単独系と比べて太く,気泡も多く,また,膨化率は増加し,密度は減少した。 米粉配合系の各破断時期での周波数成分のピーク数が米粉単独系よりも増加し,中でもHDT160配合系が他の米粉配合系よりも増加するため, HDTの配合によって,膨化物のクリスプネスを高くすることが可能となった。

 加熱処理米粉を用いて調製したライスプディングの外観は,無処理米粉を配合したライスプディングと比較して黄色みを帯びていたが, 表面は滑らかであった。HMT120配合系はUT配合系よりも流動性が非常に高く,調理器具への付着も少ないため, 製品の歩留りの向上が期待された。HDT160配合系はUT配合系よりも硬く,しなやかで, HMT120配合系は硬く,脆い力学特性を示した。さらに,HMT120配合系の付着やべとつきが,UTおよびHDT160配合系と比較して少ないため, 米粉への湿熱処理は米粉特有の「糊っぽさ」軽減の物性改良を可能にする処理方法であることが明確となった。 UT配合系の内部構造は網目構造というよりむしろデンプン粒の凝集体に近く,空隙も少なかった。一方, HDT160配合系およびHMT120配合系の内部構造は,網目構造の形成を確認できた。ライスプディングの官能評価から, HDT160配合系およびHMT120配合系はUT配合系と比較して付着やべたつきが少なく,餡と似た食品テクスチャーを持つと識別された。