GHRP-2は様々な動物でGH分泌を刺激することが報告されている。ブタへのGHRP-2投与は
GH分泌を刺激し、増体促進効果も確認されているが、GHRP-2投与による血中IGF-1濃度の上昇や下垂体細胞培養系での
GH分泌の証明はまだ報告されていない。GHRP-2のGH分泌刺激のメカニズムには種によって異なる部分があることが知られている。
本研究では、ブタにおけるGHRP-2刺激GH分泌の作用メカニズムの一端を明らかにする目的で5つの実験を実施した。
<実験1> ブタにおけるGHRP-2頻回皮下投与が血中GH濃度およびIGF-1濃度に及ぼす影響を検討した。生理食塩水或いはGHRP-2
(30μg/kg BW)を1日2回10日間皮下投与し、定時採血を行い、血漿GHとIGF-1濃度の推移を検討した。GHRP-2頻回投与は
GH分泌反応の低下を引き起こし、血漿IGF-1濃度は3日目から増加し(p<0.01)、10日目までこの濃度を維持した。これらの
結果からブタに対する10日間連続のGHRP-2投与はGH分泌反応の経時的減衰を引き起こすものの、血漿IGF-1濃度を増加させる
ことが示された。
<実験2> ブタにおけるGHRP-2刺激GH分泌反応に対するGHフィードバック機構の関与を検討するため、ブタGH(5μg/kg BW)
を投与し、180分後にGHRP-2(30μg/kg BW)とGHRH(1μg/kg BW)を負荷した。ブタGH投与はGHRHのGH分泌反応を完全に抑制し
(p<0.01)、GHRP-2,GHRH同時投与によるGH分泌反応を低下させ(p<0.05)、GHRP-2のGH分泌には影響しなかった。この結果から、
ブタにおけるGHRP-2のGH分泌作用にはGHの負のフィードバック機構が作用しないと考えられた。
<実験3> ブタにおけるコリン作動薬の前処理によるSRIF分泌刺激又は抑制がGHRP-2およびGHRH刺激GH分泌反応に及ぼす
影響を検討した。GHRP-2(30μg/kg BW)とGHRH(1μg/kg BW)投与前15分にAtropine(80μg/kg BW)を投与すると血漿GH基礎濃度は
減少した(p<0.05)。Atropine投与はGHRH負荷GH分泌反応を抑制し、GHRP-2,GHRH同時負荷GH分泌反応を低下させ(p<0.05)、
GHRP-2負荷GH分泌反応を変化させなかった。一方、SRIF分泌を抑制するPyridostigmine(Pyr;100μg/kg BW)投与は血漿GH濃度、
GHRP-2とGHRP-2,GHRH同時負荷GH分泌反応を有意に増加させた(p<0.05)。この結果からブタにおけるGHRP-2のGH分泌反応は
SRIF作用の抑制によっていることが示唆された。
<実験4> GHRP-2とGHRHの2時間間隔3回反復投与におけるGH分泌反応の減衰に対するSRIF分泌抑制の効果を調べた。
GHRP-2(30μg/kg BW)とGHRH(1μg/kg BW)の2回目投与15分前にPyr(100μg/kg BW)を投与した。Pyr投与はGH分泌反応の
低下に影響を及ぼさなかった。GHRP-2とGHRHの相乗的作用は1回目投与時にみられたが、2回目投与以後にはみられなかった。
この結果から、SRIFはGHRP-2とGHRHの複数回投与によるGH分泌反応低下に関与していないと考えられた。
<実験5> ブタ下垂体細胞培養系におけるGHRP-2およびGHRH刺激GH分泌反応に及ぼすGHRH受容体拮抗剤(Ga)とSRIF負荷の
影響を検討した。GHRP-2は10-14から10-6Mの範囲でGH分泌細胞を刺激した(p<0.05)。GHRP-2はGHRHと相加的にGH分泌を刺激した。
SRIF(10-6M)或いはGa(10-6M)処理はGHRP-2とGHRHのGH分泌を基礎GH濃度レベル以下まで減少させた(p<0.05)。SRIF処理では、
GHRP-2のGH分泌反応はGHRHのそれより有意に低下し(p<0.05)、GHRHとの相加作用も消失した。一方、Gaの処理では、
GHRP-2とGHRHのGH分泌反応の大小関係は対照と同じになった。この結果から、ブタ下垂体細胞培養系でのin vivoにおける
GH分泌刺激相乗作用はGHRH受容体を部分的に共有することによるものと推測された。
以上の5つの実験結果から、GHRP-2はブタにおいてGH分泌を刺激し、血中IGF-1濃度を増加させることが確認され、
ブタに対する反復投与によるGH分泌反応低下にはラットとは異なりSRIFの関わりがなく、またブタに対するGHRP-2の
GH分泌作用機構にはヒツジと同様にSRIF作用の抑制と下垂体のGHRH受容体への作用が関わっていることが示唆された。
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